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執筆者の写真梶川 哲生

「Iasa日本支部アニュアルカンファレンス2021」振返りレポート


今年度の「Iasa日本支部主催のアニュアルカンファレンス2021」は、講演者3名をお迎えし11月5日に無事に終える事が出来ました。昨年に続き今年度もフルオンライン形式で開催しましたが、年々多くの参加者にご視聴頂きIasa日本支部関係者を代表して御礼を申し上げます。

Iasa日本支部イベント一覧情報:https://www.iasa-japan.org/event


今回のカンファレンスの主テーマは、DX時代のエンタープライズ・アーキテクチャ」と題し、各方面でご活躍の講演者3名をお招きし、DX活動を成功裡に導く上で重要な鍵となる「アーキテクチャへの取組み」、「アーキテクチャを担う人材」、取り巻く課題等についてそれぞれの見解と事例等をご紹介頂きました。この振返りレポートでは、各講演者のメッセージと印象に残った点などを部分的に紹介させて頂きます。尚、3名の講演者の方のプロフィール詳細は、既にご紹介しました“「アニュアル・カンファレンス 2021」講演の主要テーマ事前のご紹介”をご覧下さい。



講演1. なぜEAがDXを加速するのか?
〜 DXの本質とEAによる推進手法 〜
講演者: 山本 修一郎 様


最初に登壇頂いた山本様には「何故EA(Enterprise Architecture)がDXを加速するのか? 〜 DXの本質とEAによる推進方法〜」について講演を行って頂きました。何故DX推進にEAが必要なのか、組織が直面する課題を中心に氏の幅広い知見から解説を頂きました。ここでは、特に印象に残った見解や論点を紹介させて頂き、筆者の個人的な感想も少々加えさせて頂きました。講演スライドの参照ページも付記しましたので必要に応じてご覧下さい。


山本様の講演では以下の題目ついて解説がありました。

  • DXとEAの関係について:日本と世界の捉え方の違い、主要なEAフレームワークの特徴と比較、EAとDXの相互関係についてその俯瞰的な解説(講演スライド3〜6ページ)

→ 世界と日本のEAの捉え方の違いは随分開きがある点は改めて認識しました。日本のEAに対する理解が今日何故そうなっているのかは興味がある所です。


  • デジタル・リーダー像について:DX先進企業における人材に、経営、事業、技術の3つに精通しリーダーシップを発揮できる「八咫烏(やたがらす)人材を有すると言う共通項があるとの調査結果(講演スライド7ページ)

→「経営、事業、技術」のそれぞれ3分野に精通する人材は稀有と思われますが、組織的に取り組めば、八咫烏的な個人、または、チームが編成できるのでは、と感じますが読者の皆様の組織では状況はいかがでしょうか?

  • DXの本質について:“持続可能な企業の発展手段として既存のビジネスモデルからデジタル変革を通じて変化即応性を有するデジタルエンタープライズへ変革させる事“。 そのためにEA手法に対応したDX推進が重要(講演スライドP6〜10ページ) 

→ DX自体は目的では無く、あくまでその手段である事を再認識しました。P10の4つの狙いは、アーキテクチャ活動として継続的に取り組まなければいずれも達成は困難に思えます。

  • DX推進を阻む7つの壁:DXに取り組む上で組織が直面する課題として、従来の人依存型のメンバーシップ型からジョブ型への経営変革の必要性、IT人材とDX人材の違いなど、DXを成功に導く上で見落としがちな課題(講演スライドP15〜P19)

→ とかくDXと言う結果イメージとして何らかのソリューションの導入がゴールとして捉えがちになりますが、現在の組織上の前提条件を前もって整備しておく事が重要である事が示されています。

  • デザインエンジニアリング:DXに必要な知識として開発された名古屋大学国際工科専門職大学向けの新カリキュラムの中で、「デザインエンジニアリング概論」の構成の紹介 (講演スライド21ページ)

→ “価値創造のためにエンジニアリングをデザインする“観点からアーキテクチャのレイヤー毎に個別の学習テーマがマッピングされている点が大変興味深いと思います。是非ご覧下さい。


→ 尚、Iasaが発行するBTABoK(旧ITABoK)では、その知識とベストプラクティスを4つのアーキテクチャ領域と5つの知識体系で網羅しています。(注:BTABoK: Business Technology Architecture Body of Knowledgeの略。(詳しくはこちら https://www.iasa-japan.org/itabok

  • モデリングツールで視覚化したビジネスモデル例や各社のDX戦略例、SDGsに向けたDXの位置付けの解説、医療SDGsとして戦略マップ例の紹介(講演スライドP22〜P36)

→ DXをデジタル技術の活用・応用の視点のみで捉えると、関わる事業や経営の何処にどの様なインパクトを与え続けるかの視点が欠落しがちです。単発のプロジェクトの実装や導入で終わってしまう場合の理由はこの辺りにありそうです。


今回の山本様の講演では、DXを継続的な成功に導くために新しいビジネスモデルをEA視点でケイパビリティとして捉えそれをモデルとしてデザインするエンジアリングの重要性と、DXを阻害する課題への取組みについて、様々な事例紹介を通じて講演を行って頂きました。DXの本質に迫る大変興味深い講演を有難うございました。



講演2. 「DX時代におけるCX/UXの重要性と事例紹介」

良いCX/UX、悪いCX/UXとは何か、その違いは利用者中心であるか否かに尽きる

講演者: エスディーテック株式会社 代表取締役 川端 一生 様


2番目の講演者の川端 一生様にはDX時代におけるCX/UXの重要性と事例紹介の講演を行って頂きました。当日の講演では以下の議題ついてわかり易い解説がありました。

  • 利用時品質とは? (講演スライドP5〜P8)

→「利用者が実感する利用者を中心とした品質」とは大変明確でわかり易い定義です。一般的には多くのIT関係者は品質属性の一部の一部として捉えられている方が多いと思いますが、それ以上の重要性がと価値がこの領域には有りそうです。それにしても、僅か2年程度で停止されたパスポート電子申請システムの累計利用者が133人、年間運用費が8億円とは大変ショックな事例でした。

  • UXとCXは異なる? (講演スライドP22〜23)/ CX/UXを良くするためには? (講演スライドP24〜25)

→ UX:ユーザー(利用者)体験、CX:顧客体験の評価は、その良し悪しを決定づけるのは「利用者中心であるか否か」に尽きる、と言うシンプルな説明はわかり易く説得力があります。

  • 人間中心設計の必要性 (講演スライドP29〜32)

→ 現在の多くの製品は、多機能・高機能・複雑化の道を歩んでいます。「利用者とその環境の理解が不足のまま開発すると、CX/UXは悪化する」の論点は、製品やシステム開発に携わる方々にそのプロセスの在り方や進め方で工夫できる余地が無いか見直す機会になるでのはないでしょうか?

  • デザインエンジニアリングの重要性(講演スライドP33〜39)

→「デザインをエンジニアリングする」には、多様性と多能性を持ったチームが必要であり、職能間(デザイナ、エンジニア、データサイエンティスト、等)の専門家の共感と共創が必要であるとのメッセージは、大変新鮮で説得力があります。DXの推進体制にこの視点が足りない場合は、最適なデザインの創出は困難になる事が予想されます。冒頭の事例紹介であった2年で撤去されたシステムにはこの辺りに原因があったのでしょうか?


私達Iasa関係者の気付きとしても、従来のEAの4つのアーキテクチャ領域(ビジネス、インフォメーション、ソフトウェア、インフラストラクチャ)に加えてCX/UXもアーキテクチャの一構成要素として捉える必要があり、それを科学的なアプローチでデザインする事がDX活動にも必要とされていると感じています。今回、川端様には「デザインをエンジニアリングする」事の意味とその価値をわかり易い事例を交えて講演を行って頂きました。貴重な講演を有難うございました。



講演3. 「BTABoKはアーキテクチャの実践にどの様に変化をもたらすか?」
ステークホルダー主導のアーキテクチャ実践のフレームワーク"BTABoK"
講演者:IasaGlobal ファウンダー兼 CEO Paul Preiss様 (英語による講演)


3番目の講演は、世界最大級のエンタープライズおよびITアーキテクト協会であるIasaGlobalのファウンダー兼CEOのPaul Preiss氏(ポール・プライス氏)です

プライス氏には、BTABoKがアーキテクチャの実践にどの様に変化をもたらすか?」の講演を行って頂きました。過去10年以上にわたりIasaGlobalが公開してきた’ITABoK ( ITアーキテクチャ知識体系)’ が新しく’BTABoK(ビジネステクノロジー・アーキテクチャ知識体系)’ に改定された点も注目です。(BTABoK v3英語版ドラフト: https://itabok.iasaglobal.org/)


当日の講演は英語による講演であったため、ここでは必要に応じて補足説明をする形式にしています。

  • 現代のEAについて:DXの推進は、DXを駆動する”エンジン”がなければ困難である(講演スライド:P4〜6) 

→ DX推進において、アーキテクチャが重要な役割を果たす中で、BTABoK(旧ITABoK)を活用する事によりアーキテクチャ・チームはより効率的、集中的に活動する事が可能になる

→ BTABoKは、「評価方法 - 成熟度モデル」、「価値モデル - エンゲージメントモデル」、「オペレーティングモデル - エンゲージメントモデル」、「人材モデル - スキルモデル」の4つから構成されている

  • デジタル化には組織のDNAの変化が必要:新しい取組み方の検討を(講演スライド:P7〜10) 

→ 顧客の環境や課題が変化しており、顧客に関連する「新たなツール、エコシステム、新たなコスト」について情報収集が欠かせない。

→ ビジネスモデルの課題:ビジネスエコシステムが深く関与する場合は、複数のプラットフォームの関与と共同作業の重要性が増し、関係者のエンパワーメントが必要になる

  • BTABoKのエンゲージメント・モデル:(講演スライド:P11〜20) 

→ Iasaが提唱するアーキテクトの必要な全般スキルの体系についての解説

→ EAの組織について:実戦を通じてビジネス価値のデリバリーにフォーカスする事が重要

→ アーキテクトにはDX活動の中心的役割が期待され、アーキテクト、エンジニア、ビジネス関係者は適度な緊張感と役割の基で連携する必要がある

  • アーキテクチャの移行と成果のケイパビリティ:(講演スライド:P21〜22) 

→ 顧客にはビジネス成熟度評価、ビジネスには、技術成熟度評価、社員にはアーキテクチャ成熟度評価を適用する評価方法を推奨

  • デジタル・エンゲージメント用のツール、カードとカンバス(講演スライド:P23〜30)

→ エンゲージメント用カードの種類:カスタマージャーニーマップ、ペルソナ・カード、ビジネスモデル・ケイパビリティマップ、戦略スコアカード・カンバス、等ツールを公開

  • エンゲージメント成熟度モデルについて:(講演スライド:P33〜35) 

→ 成果のデリバリー、アーキテクトがチームとして機能しているか等、各成熟度ゾーンを5つの成熟度レベルで測る事が可能。エンゲージメントを可視化できるモデルは大変興味深いです。


講演の最後に、Preiss氏からIasa Globalが今年度「Architecture & Governance」と言うWebサイト上でマガジンを発行する組織をM&Aにより統合したとのアップデートもありました。

IasaGlobal創立者であるPreiss氏の講演により、今後Iasa Globalが目指しているBTABoKとその内容を垣間見る事が出来ました。Preiss氏にとっては8時間の時差があり早朝の講演になりましたが、貴重な講演を有難うございました。


終わりに...

今回のカンファレンス参加者にご協力頂いたアンケート結果では、今後のBTABoK v3のリリースの期待が最も高い事が示されました。関係者一同、早期のリリースに向けて努めたいと思っております。今回のカンファレンスにご登壇頂いた講演者3名の方にはこの場をお借りして厚く御礼を申し上げます。来年もIasaアニュアル・カンファレンスを開催する予定ですので、是非ともご期待下さい。


Iasa日本支部の新しいWebサイト: https://www.iasa-japan.org/


―  終わり ー

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