ユーザ体験を設計の起点に - Design Methodologies and Processes
- 末永 貴一

- 2025年11月14日
- 読了時間: 5分
ITサービスやシステムを開発するうえで、最も重要なのは“顧客が使って本当に満足するかどうか”です。どれほど新しい技術や綿密な構造設計があったとしても、実際にユーザが「使いやすい」「仕事が楽になる」「自分のニーズにぴったりだ」と感じる体験を生まなければ、サービスの成功にはつながりません。そのため、設計手法やプロセスを選ぶ場面でも常に「顧客目線」「ユーザ体験」を中心に据えることが不可欠です。本コラムでは、BTABoKのCompetency ModelのDesignの中にあるDesign Methodologies and Processesの内容をユーザ体験(UX)の向上を観点に解説します。
すべての開発プロセスを“顧客痛点”から始める
システム開発を始める際に最初にやるべきはターゲットユーザの業務・生活・感情・習慣等の情報を“本物の声”として拾い上げることです。ユーザインタビュー、現場観察、アンケートを実施して情報吸い上げる試みをしますが、形式的なものではなく顧客が実際に何に困り何に価値を感じているかを“共感を持って深掘りする”ことが重要です。(ここが結構大変だったりしますが)
この情報が明確になることで、どの設計手法を選び、どのプロセスに重点を置くかが決まります。
たとえば、ウォーターフォール型など計画型プロセスでは、初期要件定義でユーザの“真の痛点”を徹底的にヒアリングし、ドキュメントに反映させながら“将来の体験”を設計します。アジャイル・反復型の場合なら、短いスプリントやインクリメントごとに「現場で本当に使われているか?」を実地検証し、フィードバックを次サイクルへ素早く取り込むことで体験価値を高めていきます。
顧客体験の“動的設計”——変化と共に進化する手法

設計プロセスは、スタート時点だけではなくサービス提供の全期間で“ユーザ中心”の思考を一貫して持つことが重要です。
現代は顧客のニーズも業務環境も刻々と変化しています。だからこそアジャイル型、スパイラル型、リーン型など“反復・進化”を前提にした設計プロセスが、より良い顧客体験創出に向いています。(ただし業務領域やターゲットデバイス等の制約でこれらのプロセスが適用できない領域も存在するのも現実です)
具体的には、以下のような実践が有効です:
ユーザストーリー深化
設計時に単なる「機能要件」ではなく、「ユーザがこの機能を使って何を実現し、どんな気持ちになるか?」まで意識して文書化。サービスが顧客の日常の“どんな瞬間”を変えるかを設計メンバー全員が共有します。
プロトタイピングとユーザテスト重視
設計途中でも画面やワークフローのプロトタイプを素早くつくり、実ユーザに使ってもらう。使いやすさや理解しやすさ、楽しさ、不満点などを直接会話・行動の中から収集します。その結果を即座に設計へフィードバックして変更・改良します。
パーソナライズ・カスタマイズ設計
顧客の業務フローや好みに合わせてUI・機能・通知設定などを柔軟に調整できる設計思想を最初から組み込みます。多様なユーザの体験価値を守り、高めるための“個別最適”の仕掛けを設計思想に盛り込むことが不可欠です。
品質属性と現場の“ユーザ体験”を具体的に担保する
ユーザが実際にシステムを使う現場では、「使いやすさ」「アクセシビリティ」「多言語対応」「カスタマイズ性」といった品質属性が体験価値に直結します。以前のコラムで体験価値(UX)を高める品質とは - Usability, Localization, Accessibility, Personalization/Customizabilityの解説をしましたが、直接的にユーザが体験価値を感じやすいポイントでもあります。
使いやすさ(Usability)の追求
直感的な操作、情報の整理、エラーレスな導線。ユーザの作業効率を上げ、“使って気持ちがいい”“すぐに覚えられる”設計を目指します。ユーザテストやA/Bテストで数値指標を使って“本当に使いやすいか”を可視化します。
アクセシビリティ(Accessibility)の徹底
高齢者・障害者・さまざまな言語利用者など多様な顧客を想定し、誰もが同じレベルでサービス価値を受け取れる設計が必要です。ガイドラインやチェックツールの活用に加え、障害当事者のモニター参加・フィードバックを定期的に受ける仕組み作りがあると効果的です。
ローカライゼーション/パーソナライズ/カスタマイズ性
ユーザの居住地域や業務内容に合わせて、画面表示やサポート内容、通知方法などを細かく切り替えられるように設計します。ユーザごとに設定できる機能・表示・権限・サポートを強化し、「一人ひとりのためのITサービス」を実現します。
顧客との対話と設計プロセスの融合
顧客体験を設計の中心に据えるには、企画者・開発者・運用担当が“顧客との対話”を設計プロセスに組み込むことが不可欠です。たとえば、設計段階で顧客の現場ワークショップを実施し、使い勝手やコミュニケーションフローの課題を一緒に分解してみます。
設計が進むごとに、「現場で本当にどう使われているか」を定期的にヒアリングし直しましょう。ローンチ後も運用部門やサポート部門が顧客の不満・要望を設計チームへフィードバックする体制を作り続けることで、サービスが“生きた顧客体験”として常に改善されていきます。
設計品質の記録と顧客体験ノウハウの継承
設計手法やプロセスの選択は、プロジェクトごとに異なりますが、“顧客体験にこだわった判断”とその結果は必ず記録・可視化します。設計レビューやユーザテストの記録、仕様変更の理由、リリース後の顧客満足度レポートなど、ノウハウを組織の知識資産として残すことで、次のプロジェクトにも活かせます。
特に「顧客の声にどう応えたか」「期待をどう超えたか」「反省すべき点はどこか」を設計ドキュメント・ナレッジベースに積極的にまとめることで新しいメンバーや後継チームが「顧客体験設計の意味」を理解し、失敗を繰り返さず、成功の型を活用できる組織になっていくでしょう。こうした“知恵の蓄積”こそが持続可能な体験価値の提供につながります。
どんな設計手法も、最終的には「顧客が本当に使って嬉しいか」という一点で評価されます。
顧客目線で設計プロセスを丁寧に選び、使いやすさ・アクセシビリティ・パーソナライズといった品質属性まで細部にこだわり、顧客との対話と記録を通じてノウハウを継承していくこと。これこそが「本当に使われるITサービス」を作り続ける組織に必要な力です。
Iasa日本支部では情報交換や勉強会の場を設けており、システムの視覚化についても研鑽を深めていますので、今後のIasa日本支部の活動へのご参加、ご協力をよろしくお願いいたします!



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