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BTABoK Decisions ~ AI時代のアーキテクチャ意思決定 ~

  • 執筆者の写真: 松井 淳
    松井 淳
  • 4 日前
  • 読了時間: 5分

新年明けましておめでとうございます。2026年、私たちのエンジニアリング環境は、生成AIの急速な進化によって劇的な変化の中にあります。あらゆる仕事の自動化が進み「人でしかやれないこと」との境界線が問われる今、アーキテクトにとって最も重要なテーマは、技術の選択を超えた「意思決定」の本質に立ち返ることではないでしょうか。本稿ではアーキテクチャ意思決定をテーマに、グローバルな知見であるBTABOK(Business Technology Architecture Body of Knowledge)を紐解きながら、これからのアーキテクトが担うべき役割を考察します。 参考

※本コラムはBTABoKの内容を要約・解釈したものであり、厳密な定義や詳細は原典を参照してください。

 

・今なぜ意思決定が主要テーマとなるのか

昨今の生成AIの熱狂は、ソフトウェア開発の風景を一変させました。コード生成からデバッグ、ドキュメント作成に至るまで、AIはプログラマーの強力な代替、あるいは補完として機能し始めています。しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質が「ビジネスモデルの変革」にある以上、真に重要なのは、個々のコードの良し悪しではなく、「エンタープライズレベルでの重要な意思決定」です。「AIが全ての判断を代行してくれる」という期待は、現時点では幻想に過ぎません。アーキテクチャ上の決定は、技術的な合理性だけでなく、組織の政治、予算、将来の拡張性、そして人間社会への影響といった複雑な要素が絡み合うからです。AI時代だからこそ、アーキテクトには、自動化できない「責任ある選択」を行う能力がこれまで以上に求められているのです。

・アーキテクチャ意思決定の3階層モデル

アーキテクチャにおける意思決定は、その影響範囲によって以下の3つの階層(スコープ)で捉えることができます。

  1. 戦略層(エンタープライズ・エコシステム): 企業全体や、その顧客・サプライヤーを含むエコシステムに影響を与える決定です。ERPの選択やクラウド戦略、業界標準の採用などがこれに該当し、より低レベルの決定を導く「ガードレール」としての役割を果たします。

  2. 戦術層(バリューストリーム・ソリューション): 複数の製品やサービスを支えるソリューションレベルの決定です。ビジネス価値を生み出すための一連の流れ(バリューストリーム)全体に影響を及ぼします。

  3. 実行層(製品・サービス・モジュール): 特定の製品、あるいはシステムのサブコンポーネント(モジュール)に関する決定です。隣接するサービスには直接影響を与えない、局所的な最適化が含まれます。

アーキテクトは、今自分が行っている決定がどの階層に属し、どの範囲に影響を及ぼすのかを常に意識しなければなりません。重要なのは、これらが独立して存在するのではなく、連鎖的に影響し合う点です。上位の意思決定は下位の選択肢を制約し、下位の判断の積み重ねが戦略の成否を左右します。

・アーキテクチャ意思決定の本質と原則(BTABOKの視点)

BTABOKにおいて、アーキテクチャ上重要な決定(ASD: Architecture Significant Decisions)は、マーティン・ファウラーの言葉を借りれば「重要なもの」と定義されます。BTABOKによれば、ASDの目的は決定事項を明確にし、要件や設計の理由、結果と関連付けて追跡可能にすることにあります。

ここでは、アーキテクトが知っておくべき意思決定の原則を、BTABOKに基づき解説します。

① 意思決定のトレーサビリティ

優れた意思決定には、ビジネスゴールから要件、設計理由、そして最終的な測定に至るまでの一貫した追跡可能性(トレーサビリティ)が不可欠です。BTABOKでは、決定事項を「アーキテクチャ決定記録(ADR)」としてリポジトリに公開し、誰でも発見・追跡できるようにすることを推奨しています。

② 認知バイアスとの戦い

意思決定は常に人間の弱さにさらされています。BTABOKでは、「アンカリング効果」(最初の情報に引きずられる)、「確証バイアス」(自分の意見を裏付ける情報ばかり集める)、「サンクコストの誤謬」(過去の投資に執着する)といった認知バイアスが誤った決定の根源になると指摘しています。アーキテクトは客観的なツール(意思決定バイアス校正器など)を用い、バイアスから意思決定を再構築する努力をしなければなりません。

③ 「最後の責任ある瞬間」を待つ

アジャイルな環境において、コードを書く前に全てを確定させる必要はありません。BTABOKは、「可能な限り選択肢をオープンに保ち、必要な時、あるいは正当な理由がある時までコミットしない」という原則を提示しています。これは先延ばしではなく、情報が増え、より賢明な判断ができる「最後の責任ある瞬間」まで代替案を保持し続けるという戦略的な忍耐です。

④ 技術的プロダクトオーナーとしての責任

最終的に、決定が「価値、複雑性、構造的整合性、ステークホルダー」に影響を与える場合、アーキテクトは「技術的プロダクトオーナー」として機能すべきです。企業と顧客のために最大の価値を生むトレードオフが行われているかを確認する責任があるのです。

・これからのアーキテクチャ意思決定モデル

AI時代におけるこれからの意思決定モデルは、「AIによる支援」と「人間による責任」のハイブリッド型へと進化していくのでしょう。AIは、過去の膨大なデータから類似の事例を提示したり、スコアリング手法における数値計算を補助したりする点では非常に有益です。 しかし、BTABOKが強調するように、意思決定の本質は「ステークホルダーの管理」や「組織のダイナミクスへの対応」にあります。チームを納得させ、フィードバックを反映させ、企業に対する責任を果たすことは、人間にしかできません。

私たちは、AIを「より速く、より正確な情報を得るためのツール」として使いこなしつつ、最終的な「価値のトレードオフ」を担うアーキテクトとしての倫理と専門性を磨き続ける必要があります。

新年の一歩として、まずは身近な設計判断をADRとして記録し、自分の意思決定に潜むバイアスを疑ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。その積み重ねが、AIには決して真似できない、真に「重要な」アーキテクチャを築く礎となるはずです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

Iasa日本支部では情報交換や勉強会の場を設けております。そこで、みなさんと一緒にアーキテクチャに関する学びを深めていければと思いますので、是非ともIasa日本支部の活動へのご参加、ご協力をよろしくお願いいたします。

 

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