「Iasa日本支部アニュアルカンファレンス2022」振返りレポート


今年度の「Iasa日本支部主催のアニュアルカンファレンス2022」は、講演者3名をお迎えし11月4日に無事に終える事が出来ました。昨年に続き今年度もフルオンライン形式で開催しましたが、今回も多くの参加者にご視聴頂き御礼を申し上げます。(Iasa日本支部イベント情報:https://www.iasa-japan.org/event-details/anual-conference-2022)


今回のカンファレンスの主テーマは、「逆襲の日本式経営と実践的アーキテクチャ」〜ビジネス改革とデジタル化への挑戦者たち〜を主題に、豊富な知見と実績をお持ちの講演者をお招きする事ができました。社会全体が本格的なデジタル活用と革新の時代を迎えている今日、経営や最新テクノロジーの理解、それを橋渡しするテクノロジーモデルやアーキテクチャへの取組みはその重要性を増しています。今回のカンファレンスでは、これらの関連する分野で活躍されている3名の方から講演を頂戴しました。この振り返りレポートでは、各講演者の主要なメッセージと印象に残った点などを部分的に紹介させて頂きます。尚、講演資料は近日公開予定です。



講演1. 日本企業復活のために必要なマネジメントの民主化

講演者:慶応義塾大学准教授  岩尾 俊兵 様


最初に登壇頂いた岩尾様には、「日本企業復活のために必要なマネジメントの民主化」と題する講演を行って頂きました。日本社会は「より多くの人への経営教育を行う事によってより豊かになれる」というメッセージを中心にこれまでの研究成果と国際比較の観点から解説を頂きました。ここでは、主な論点にコメント添えて振り返らせて頂きました。


主要メッセージ

  • 経営学者としてのこれまでの研究成果の一部として、「経営教育の最大の間違いを正せば経営者も従業員もより豊かになれる」、また、「経営教育は少人数に深くではなく、多人数に浅くが正解」の論点が3冊の著書と共に紹介されました。


日本復活のための武器としての具体的策について

  • 「13歳からの経営の教科書」にも纏められている「対立解消思考」の例としてペットボトル商品の価格設定の事例紹介があり、子供達が身近なテーマを通じて経営を学ぶ機会が重要である事

  • 日本では対立解消思考の観点から互いに高次の目的を捉えて抽象化する力が不足している傾向があり、物事の議論や検討の際により高次の目的(例:豊かな社会、利用者の拡大、会社の成長、利益確保に繋がるか、等)を意識する事が重要

  • また、私達日本人は逆輸入された方法論等を抽象化できず個別の方法論として捉え吸収しようとした例が過去にいくつかあり、抽象化の作業が出来ていればその独自性や価値を逆輸入の前の段階で認識できていた、との指摘

  • 経営教育を広く浅く普及させる氏の提案として、著作権放棄の上で経営の学びの資料の無償配布を行っている実践的な取組み

起業促進の国際比較で見た日本と突破口の可能性

  • 人口1000万人あたりのユニコーン企業数の国別比較についてチャートの紹介があり、そのデータに基づいて日本で新しい企業が如何に生まれていないかの現状とその阻害要因について

筆者注:一般的にユニコーン企業とは創業して10年以内に評価額が10億ドル(約1,400億円)を超える非上場のベンチャー企業の事を指す)

  • ユニコーン企業数1位のイスラエルと日本の違いの分析によると、12項目の観点のうち大きな違いは僅か1つのみ、それが「社会制度と風土」である事

出典: https://gemconsortium.org/report/gem-20212022-global-report-opportunity-amid-disruption


日本生まれのユニコーン企業数がイスラエルに比べて約1/25、対米国で約1/24、対韓国で1/6, 対中国で1/3と言う統計データを見ると背景には複数の要因がある様に想像していました。然しながら、イスラエルとの比較においてはその阻害要因が「社会制度と風土」のみとの事なので、日本での起業促進の突破口の可能性を大いに感じた次第です。


本講演では、「日本企業復活のために必要なマネジメントの民主化」のための戦略的で実践的な普及への取組みについて紹介頂きました。「マネジメントの民主化」は大変大掛かりなテーマに聞こえますが、岩尾様により紐解かれた説明を聴くと突破口は既に見えている様に思えますが、視聴者の皆様はどの様に感じられたでしょうか?



講演2. アーティファクト管理の重要な3つのポイント

ビジネス改革をアーティファクトとアーティファクト管理から考える

講演者:JFrog Japan株式会社 デベロッパー・アドボケイト 佐藤 由久 様


2番目の講演者の佐藤様にはアーティファクト管理の重要な3つのポイントと題する講演を行って頂きました。システム開発・運用に従事されている方、またはその管理者の方向けの講演内容でしたが、現場で課題に直面されている方以外の方にも参考になったのではないでしょうか。本講演では以下の議題に沿って解説頂きました。

  • アーティファクトとは?

  • アーティファクトの特徴

  • アーティファクトの管理方法

  • 開発/運用におけるアーティファクト管理の重要性

  • まとめ

  • 会社紹介

以下、ビジネス改革への貢献の観点に絞って取り上げています。


アーティファクトの管理方法 - 増え続けるアーティファクトをどう管理すべきか?

  • オープンソース化の進化と共に対象となるアーティファクトとその組み合わせの数は肥大化し続けており、ツールを利用した適切な管理手法が必要

  • 3通りの管理手法があるが、「バイナリー・リポジトリによるアーティファクトの一元管理」が推奨される

  • バイナリー・リポジトリ採用のメリットとして以下の3つが挙げられる。そのいずれも「ビジネス変化に対応するアジリティ向上」に繋がる

1) バージョン管理機能による煩雑な管理からの解放と自動化

2) キャッシュ機能による外部アーティファクトの高速な提供による効率アップ

3) メタデータの紐付けによるトレーサビリティの向上と信頼性の確保

  • 結果として開発と運用の現場に「品質向上」、「効率向上・ミス軽減」、「セキュリティ向上」、「脆弱性に対するリスク軽減」に寄与する効果が期待できる

アーティファクト管理の効果的な活用

  • アーティファクト管理導入には主に3つのメリットがある

- エンジニアの負荷軽減、システム開発におけるコンプライアンス向上、全体を通じた情報共有の容易化

  • 開発〜運用プロセス全体を通じた関係者間のコミュニケーション・ギャップが解消され、情報共有化が促進される。DevOpsの第1歩に繋がる

アーティファクト管理ツールの新規の導入時の予算取りの際には、導入後の具体的なビジネス的効果を定量化する等、紹介のされた「効果的な活用」がヒントになりそうです。

筆者は開発・運用の現場を離れて随分年数が経ちますが、今回の講演ではツールやテクノロジー、その導入によるビジネス的効果の繋がりを大変分かりやすく解説頂いて大変有難うございました。



講演3. 「クラウド時代のアーキテクチャと人材育成

講演者:株式会社アーキテクタス 代表取締役  細川 努 様 


3番目の講演者の細川様には「クラウド時代のアーキテクチャと人材育成」と題する講演を行なって頂きました。細川様にはIasa日本支部のアドバイザリー・ボードメンバーも担って頂いており、また、アーキテクチャ・デザインにおいては現場の課題解決から大規模システム設計、グローバルなトレンドや事例まで精通されており、アーキテクトとして第一線で幅広く活躍されています。

本講演では以下の点についての解説とデジタル人材像に対する展望を紹介頂きました。


クラウドでありがちな問題

  • 5つの代表的な問題事例の紹介。塩漬けクラウド(レガシーをスパゲッティ状態のままクラウドに移行)、部門毎のSaaSサービスの乱立のため連携が出来ない、期待した効果(アジリティ)が得られない、現場の負荷が減らない、いずれの課題も解決されずコストだけは上がった、等

  • これらの根本原因は、クラウドに最適化されたアーキテクチャの不在のままクラウド化を行なった結果である

アーキテクチャのトレンドと特徴

  • 4種類のアーキテクチャの代表例について、5つの観点(ビジネスロジック、データベース、デプロイメント、可用性、アジリティ)から比較があり、クラウド環境にはマイクロサービス・アーキテクチャとの親和性が高い

  • どのアーキテクチャを採用するかは、業務分類と関連システムの現状整理を行なった上でIT部門と業務部門が認識を合わせ、どの様な構成がビジネスに役立つのかの全体アーキテクチャ(To-Be)を描く事が重要

適切なアーキテクチャを実現する設計論とは?

  • ドメイン駆動設計の特徴として、業務毎の特性と役割を整理した上で全体をシンプルなサービスの集合体として最適化させる設計手法である

  • ドメインとサブ・ドメイン、境界づけられたコンテキスト、コンテキスト・マップを通じて業務間の関連性と独立性、対応関係が整理された設計が可能になる

マイクロサービス実現のアーキテクチャ

  • マイクロサービスの特徴として、複数のサービスが分散環境で連携しながら全体サービスを実現しているため、従来のモノリシックな単一なアーキテクチャ内でサービスが完結する点が大きく異なる

  • 分散システム環境は、CAP定理によって「一貫性、可用性、分断耐性の3つを同時に満たすことは出来ない」という前提の上で成り立っており、マイクロサービス・アーキテクチャでは一貫性を妥協し可用性と分断耐性を重視する傾向がある

(筆者注:CAP定理:分散システムは「一貫性、可用性、分断耐性」の3つの保証のうち、同時に2つの保証を満たすことはできるが、同時に全てを満たすことはできないという定理)

  • 現行システムからどの様な移行ステップを経てどのアーキテクチャを目指すのか、移行パスの選択肢と検討すべき課題

クラウド時代のデジタル人材像

  • IT部門にありがちな悩みの事例紹介

  • 業務にもデジタルにも強い二刀流人材を目指そう」とのテーマの基、次の3つの具体的な提言

1) 現場部門でアーキテクトを育成する

2) IT部門だけでなく、現場部門を含めたデジタル教育

3) エンジニア以外もクラウド認定資格を取得する


クラウド時代のアーキテクチャと題する講演をその周辺の課題や移行パスを含めて解説頂きました。その中で「アーキテクチャの採用についてはIT部門だけではなく業務(経営)との認識合わせを通じて全体アーキテクチャの共有が大切」が印象に残りました。

デジタル人材育成については、ITと業務部門関係者の両者が「業務とデジタルの二刀流を目指す」に取り組む事によって、その組織ではDXの取組を加速する機会と場が広がり全体として大きな原動力になるのではと感じた次第です。


3名の講演者による貴重な講演に続いて、Iasa日本支部代表理事・松井よりIasa日本支部の活動紹介がありました。出版、啓蒙セミナー、勉強会、アニュアルイベント等を通じてBTABoK(旧ITABoK)の普及と専門職としてのITアーキテクト育成支援の活動概要の紹介がありました。


終わりに..

今回のカンファレンス参加者のアンケート結果では、今後のBTABoK (旧ITABoK)の啓蒙やセミナー開催、ITアーキテクト育成・教育コンテンツの提供への期待が高い事が示されておりました。アンケートへのご協力有り難うございました。

今回の講演者3名の方にはこの場をお借りして厚く御礼を申し上げます。2023年度もIasa日本支部アニュアルカンファレンスを開催する予定ですので、ご参加をお待ちしております。


Iasa日本支部のWebサイト: https://www.iasa-japan.org/


―  終わり ー

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バリューモデルとは ITABoK2からBTABoK3で大きく進化したIasaエンゲージメント・モデルですが、バリューモデルはその進化の大きな特徴の一つでしょう。「職業としてのアーキテクトの価値 (バリュー) 向上」は、Iasaの主要な活動目的のひとつであり、今回のエンゲージメント・モデルにおけるアーキテクチャの価値 (バリュー) へのフォーカスも、それに沿ったものといえます。 Iasaエンゲージメ