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デジタル庁の取組みに対するデータアーキテクチャ視点の考察 ~ データモデリングのすすめ ~

 ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、今年の9月1日より日本政府内にデジタル庁が創設され、同時にデジタル社会形成基本法および関連法が施行されます。私自身、データアーキテクチャのコンサルティングを生業としていることもあり、このような動きには大変関心を持っています。今回はデジタル庁で行う数多くの取組みを、「データアーキテクチャ」の視点で考察し、私の所感も交えながら紹介します。

 まずデジタル庁の組織体制ですが、内閣の直轄組織として図1のような形で組織化される予定となっています。

図 1 デジタル庁の組織図 (予定)

 また、デジタル庁の役割や取組みについてはデジタル庁のホームページで以下のように記されています。

デジタル庁は、デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げることを目指します。徹底的な国民目線でのサービス創出やデータ資源の利活用、社会全体のDXの推進を通じ、全ての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会を実現すべく、取組を進めてまいります。

 具体的な取組み及び得られる価値としては、分かりやすい例で言うと、“行政手続きのデジタル化(オンライン化)” により、“役所に行く必要がなくなる”、“ハンコが不要になる”、“手数料が安くなる“ などが期待されます。そのような ”デジタイゼーション“ 施策に加えてさらなる価値を得るための ”デジタライゼーション”、“DX” 施策も多岐に渡って計画されています。詳しくは今年6月に閣議決定されたデジタル社会実現に向けた重点計画<概要>を参照ください。

その計画書の中にはデジタル庁が目指す姿(図2)が描かれていますが、今回はその中でも基盤を支える上で特に重要なポイントになるであろう “包括的データ戦略” に注目します。



図 2 デジタル庁が目指す姿

 “包括的データ戦略” の概要は以下の図 3のように「戦略・政策」から「インフラ」そして「人材・セキュリティ」と、レイヤーごとに網羅的かつ具体的に検討されています。詳細については先述の重点計画の別紙で語られています。



図 3 包括的データ戦略の概要

 その別紙中「p.9 ; (3) 日本全体が参照すべきアーキテクチャ」に以下の記述がありました。


 行動指針や業務改革を通じて本戦略のビジョンを実現するためには、データに関わる我が国の全てのプレイヤーが我が国全体のデータ構造=「アーキテクチャ」を共有し、それぞれの取組の社会全体での位置付けを明確化、連携の在り方を模索するとともに、無駄な重複の排除、欠落部分の補完を行っていく必要がある。アーキテクチャを共有することを通じて初めて有機的・一体的かつダイナミックなデジタル社会を構築することが可能になる。

 これはまさに「データ中心アプローチ」を意味しています。日々の仕事や記事などの情報を通じて感じることですが、“デジタルトランスフォーメーション(DX)” を進める上で「データが大事」というのは関係者間の共通認識になりつつあります。ただ、「データが大事」と認識しつつも、システムを構成するデータの洗い出しやデータの構造、データ間の関係性、データのライフサイクルについての課題認識にはまだまだ改善の余地があると感じています。上の記述はそのような点について考慮する必要性を述べています。私自身、その具体的な活動の一つは「データモデリング」であると認識しています。データモデリングの詳細については DMBOK (第5章 データモデリングとデザイン)やITABoK V2 (2.2.2.6 情報モデリング) などを参照いただければと思いますが、ポイントは「モデリング」です。システムの構造が目指す価値を得るのに最適な形になっているかを評価するためには、そのシステムを関係者間で共通認識を持つための「モデル」が必要です。また共通認識が持てるモデルを描くためには、適した「モデリング言語」と「レベル」が必要です。データモデルのモデリング言語には、UML (クラス図)や ER 図などがあります。レベルには、「概念」、「論理」、「物理」があります。


ここで少し視点を変えて、データ活用に向けての各国の取組みを見てみましょう。デジタル・ガバメント閣僚会議のデータ戦略タスクフォースよると、欧州・米国・日本とも各レイヤーで取組みを進めているとのことです。



図 4 海外データ戦略との比較

 図 4 を見るとインタオペラビリティ(相互運用性)のレイヤーにおいて、欧州・米国と比較して、日本ではクラス図やBPMN などのモデリング要素の取組みがありません。これは極論すると「モデルを見ながら会話する文化が存在しない」と言えます。もちろん個別システムの物理設計を行うときには何かしらのモデルを描くとは思いますが、それはあくまで実装のための設計書の一部なので、「関係者間で共通認識を持つためのモデル」あるいは「システム構造の妥当性評価などを行うためのモデル」といった目的で使うものとは異なります。

国に限らず、地方自治体や大企業の情報システムのように、取り扱うデータの種類が大量かつ複雑になるケースでは、全体を俯瞰的に把握するための「概念データモデル」を描いた上で、「論理モデル」、「物理モデル」の順に詳細化することが重要です。その意義や描き方についてはIasa日本支部理事、(株)アイ・ティ・イノベーションの中山氏のブログ(ビジネスを表すデータモデル図とは?)を参考にしていただければと思います。

 「目に見える成果物」を重視するあまり、物理設計・実装を急ぎたくなることもあるかもしれませんが、共通認識や共感を得ながら進めるためにも「概念」から「論理・物理」、「As-Is」から「To-Be」のモデルを描くことが重要であり、それが結果的に近道になると思います。

モデリングの重要性についてはデータアーキテクチャに限った話ではなく、Enterprise Architecture (EA) でいうビジネスアーキテクチャ、アプリケーションアーキテクチャ、テクノロジーアーキテクチャについても同じことが言えます。

 EAに絡めて少し宣伝になりますが、11月開催予定のIasa日本支部アニュアルカンファレンスにて、名古屋国際工科専門職大学情報工学科教授(名古屋大学名誉教授)山本修一郎先生による“EA”, “DX”をテーマとした講演を計画していますので、ぜひご参加ください。開催日程等の詳細についてはメールやIasaホームページ等を通じて改めてご案内します。


 今回はデジタル庁の取組みに対して「データアーキテクチャ」の視点で所感を書かせていただきましたが、Iasa日本支部としても、私個人としてもデジタル庁には大変期待しています。デジタル庁の取組みは国を挙げた POC のようにも感じています。中にはうまくいかない施策も出てくるかもしれませんが、それらの取組みを含め、「教訓」として国民にシェアしていただき、他の DX プロジェクトに活かすことによりプロジェクトの成功率の向上、ひいては日本のケイパビリティ向上に寄与するものと考えます。


 最後に小ネタです。政府の呼びかけにより今年から毎年 10 月 10~11 日は「デジタルの日」と呼ぶことになったそうです。その日になったのは「0」と「1」で構成される日付だからだそうです。特に「休みになる」というわけではなく、以前話題になった「プレミアムフライデー」のような位置付けのものと思われます。デジタル庁の取組みに対してはデジタルの日に限らず、IT に携わる者として、また一人の国民として応援、または機会があれば積極的に参画していきたいと思います。


 ご一読いただきありがとうございました。


以上


 

Appendix 1 : 図の引用元

図 1 デジタル庁の組織図 (予定)

デジタル庁ホームページ

https://www.digital.go.jp/

図 2 デジタル庁が目指す姿

図 3 包括的データ戦略の概要

図 4 海外データ戦略との比較

首相官邸ホームページ, データ戦略タスクフォース(第5回), 参考資料2

Appendix 2 : 用語の引用元

*1 デジタイゼーション, デジタライゼーション, DX

【経済産業省】2020年12月28日 デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会 DXレポート2 中間取りまとめ(概要) (P.25, P.26)

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation_kasoku/pdf/20201228_2.pdf


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