ArchiMate 新バージョンについて
- 岸川 能行

- 8月15日
- 読了時間: 5分
ArchiMate次期バージョンの草案が、"ArchiMate NEXT Specification, Snapshot 1 " (以下スナップショット1) として2025年7月21日に公開されたので、さっそく目を通してみました。
以下記事においてはスナップショット1の内容の直接引用は著作権保護の観点から控えておりますので、具体的な記述内容については上記サイトから原本を入手・参照頂ければ幸いです。
バージョン3.2との違い
気になる「今のバージョンとの違い」ですが、これは上記のページにまとめてあります。
コンポジション・リレーションの廃止
ビジネス、アプリケーション、テクノロジーの各インタラクション、制約、契約、ギャップおよびレプレゼンテーションの廃止
振る舞い要素はレイヤーをなくし、サービス、プロセス、ファンクション、およびイベントに統合
実装イベントは、汎用的なイベント要素に置き換え
ビジネス、アプリケーション、およびテクノロジーのコラボレーションは、単一の要素に統合
ビジネス・ロールは、任意の内部能動構造要素を割り当てられる汎用ロールに置き換え
フレームワークの表現を、従来の「アスペクトとレイヤーのマトリクス」から「ArchiMate Hexagonion」に変更
「レイヤー」という用語は、より一般的な「ドメイン」という用語に置き換え
「Generic Metamodel 」の章は、以前に言及されたすべてのジェネリック要素を説明する第4章に置き換え
パスを共通ドメインの要素に変更
パスからテクノロジー内的能動構造要素への集約は、能動構造要素からパスへの実現に置き換え
リレーションシップに両端の要素のインスタンスに加えられる制約を表現するカーディナリティの追加
かなり大掛かりな変更、というのが第一印象ですが、こまかな読み解きは別の機会に譲るとして、ここでは個人的に気になるポイントをいくつかピックアップしてみましょう。
シンプルになった?
まず気が付くのは、要素の数がかなり減ったことですね。現行の3.2がArchiのパレットで数えて全部で57個。これに対しスナップショット1では42個で15個減、ざっくり3割も減ったことになります。
3.2では振る舞い要素がレイヤーごとに5種類 x レイヤー3つで計15個もあるのですが、インタラクション要素が廃止され、レイヤーごとの区別もしなくなって4つに集約されたのが大きいですね。
スナップショット1では「レイヤー」は「ビジネス」「アプリ」「テクノロジー」という分類はそのまま、「ドメイン」という呼び名になり、そこにあるのは構造要素 (いわゆるオブジェクト) だけ、ということになりました。
振る舞い要素は他のいくつかの構造要素 (後述のロールやパスなど) と一緒に、新たに加わった「Common」ドメインに属する、という体裁です。
ある振る舞いがビジネスやアプリケーションなど「どこで起きているか」は、それが「誰の」振る舞いなのかという情報をアクターとして「割り当て」てあげればわかるのですから、わざわざ振る舞い要素そのものをビジネスやアプリやらで「レイヤー特化」させる必然性はそもそも薄かったわけで、この見直しは理にかなっていると感じます。ArchiMateはよさそうだけど、なんかいっぱいありすぎて引いてしまう、なんて感じられる向きも減るのではないでしょうか。
また、従来のレイヤーという見方は、ともすろと「縄張り」っぽく、個人的にはあまり好きではなかったのですが、新しいCore Frameworkでは縄張り感が薄まって、ヒトとシステムが協力して何らかのサービスを実現する、といった絵が最初から描きやすそうです。AI-first、あるいはAI-nativeという時流にもマッチした見直し、とも言えるでしょう。
ロールとパスはより汎用的に
要素のリストラ(?)が進んだ一方で、定義と位置づけが大きく見直された要素もあります。現状ではロールはビジネス層、パスはテクノロジ層にそれぞれ属していますが、スナップショット1では名称はそのまま、どちらも「Common」ドメインの要素となっています。
これに伴い、どちらの要素もレイヤーに特化した意味づけが、より汎用的・抽象的なものに見直されました。
まずロールですが、「ヒトや組織の」役割、というところが、任意の能動構造要素の役割を記述できることに定義が見直されています。例えばAIエージェントには当然ロールがあるわけで、そういったことをきちんと表現できるようになります。
またパスについても、物理層の要素として「電気信号、エネルギーや有形の物質の」伝達経路、という定義が、無形の情報や知識といった意味的対象の伝達・伝搬の表現にも使えるように修正されました。例えば相互運用性、いわゆるインターオペラビリティといった概念も、パス要素で直接的に表現できそうです。
レイヤー間の冗長性を排除し要素数を削減する一方、レイヤー固有の要素を汎化・抽象化して使い道を拡大、といういわば両面での見直しが図られているわけですね。よりシンプルで書きやすくなったし、また意味論がヒトとマシンの共有物と化して、そこではアクターはもはやヒトとは限らない、というAI時代にもふさわしくなった感じです。
カーディナリティが書ける!
スナップショット1ではこのようなフレームワークレベルの大きな見直しのほかにも、実用的な機能拡充も図られていて、カーディナリティの追加がそのひとつに挙げられます。
ArchiMateは元々「クラス・インスタンスの区別はしない」というポリシーで、カーディナリティ表記もありませんでしたが、やはりこの点は前々からご不満の向きも多かったようで、今回ついに見直されました。といってもトリの足が書けるわけではなく、リレーションの両端にER図やUMLクラス図でも一般的に用いられる文字表記を入れられる、というものです。
リレーションは「アソシエーション」で、エンティティは「ビジネス・オブジェクト」でそれぞれ表現され、これらは現状から変更はありません。
ビジネス・オブジェクトはドメインモデルを描くのに便利ですが、カーディナリティを加えることで、より概念ERっぽく見せることも出来ますね。
ツールでの実装がどうなるのか気になるところですが、オントロジーモデルとしてmachine-readableであるところが (AI流行りの昨今では尚更)、ArchiMateのいちばんの利点だと思いますので、そこがspoilされないように願いたいと思います。
The Open GroupのArchiMate® Forum DirectorであるKelly Canon氏のポストによると、フォーラムでの最終レビューは8月4日にクローズ予定、スナップショットの紹介ページには「2026年1月31日まで有効」とあるので、そのころには新しいArchiMateにお目に掛かれそうです。人知れず(?)進化を続けるArchiMateを今後もウォッチしてきたいと思います。



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