今回は去る4月30日から5月1日にかけて行われたIasaグローバルのオンライン・イベント「April Web Summit」の概要をお伝えします。Iasa日本支部松井理事との連携により、全24セッション中、21のプレゼンテーション・デッキが、サイボウズのファイル管理上の共有資料として会員の皆さんにシェアされていますが、お忙しい皆様に代わり、私のほうでセッション紹介文やプレゼンデッキをざっと流し読みしましたので、「どんな話が有ったか」をざっくりとご紹介したいと思います。
なお、7月30日から31日にかけて同様のイベントが予定されていますので、このコラムを読んでご関心を持たれた方はイベント紹介ページ https://iasaglobal.org/Public/events/july-web-summit.aspx もぜひ覗いてみて下さい。ちなみにイベントの名称はこの回からThe Business Innovation Leadership and Technology (BILT)となるそうです。
1. モダンEA: 最前線からの教訓
(Modern EA: Lessons from the front lines)
Iasa Globalのメディアチャネルである”Architecture & Governance Magazine”の編集者お二人によるプレゼンです。タイトルの「最前線からの教訓」を一部ご紹介します。
EAはコーディネートするがトランスフォーメーションやイノベーションのオーナーシップを主張しようとはしない
戦略的方向性の充足に必要なケイパビリティの変化を特定せよ
コンテンツこそキングである!各オーディエンスにそれぞれ特化したビューを作成せよ
効果的なエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)プログラムを確立するためのアプローチは一つではない
各企業とその文化とニーズがアプローチを決定する。タイミングが全て!
企業の急速な変化に対応するために、アダプティブEAのコンセプトが再浮上してきた
“Architecture & Governance Magazine”では投稿も募集しています。まずはこちらをご覧になってみて下さい。面白いコンテンツが見つかるかも知れません (少し古い記事も混じっていますが)。
2. ガバナンス・リスク・コンプライアンス (GRC) とサイバーセキュリティ:ベスト・プラクティス (Governance, Risk and Compliance (GRC) and Cybersecurity: Best Practices)
LAにある“Framework Security”という会社のプレゼンです。セールス・マテリアルとして一般的な内容。ITABoKもセキュリティについてのコンテンツはまだまだなので致し方ありませんが。
3. レジリエントでサスティナブルな組織構築のためのビジネス・アーキテクチャの活用 (Leveraging Business Architecture to Build a Resilient and Sustainable Organization)
BAのビッグネームであるWhynde Kuehnのプレゼンです。生物学のアカデミック・バックグラウンドをお持ちで、自然環境との対比から組織のBAを語る趣向です。自然から組織は何を学ぶべきか、BAはそれにどう関われば良いのか、なかなか鋭い見解をわかりやすく説明していてお勧めです。個人的にはBAの役割の一つに「共通語彙 (common vocabulary) をつくる」ことを挙げている点が気に入りました。最後のスライドで、著名な建築家バックミンスター・フラーの箴言が紹介されていますが、EAとして持つべきマインドセットそのものだと思います。
4. COVID-19時代のEAへの認識と今後の道筋 (Perception of EA & Way Ahead in Age of COVID-19)
TOGAFのコントリビューターであるSteve Elseのプレゼンです。タイトルにCOVID-19と入ってはいますが、EAの社会的な認知度の低さに対する嘆きが大半を占めています。但しここで彼がEAと呼んでいるのは”Everything Architecture”で、政府や産業界のトップがアーキテクチャ的なアプローチを理解していれば、様々なビジネス主体が異なる時間軸で協業して問題解決出来ただろう、という、よりハイレベルな課題認識です。もちろんその対策も提言されていて、大学院レベルでのカリキュラム、CxOのオリエンテーション・プログラム、ITスタッフのワークショップなどにEAを含めること、などが挙げられています。ひょっとすると日本ではエンタープライズ (企業) としてのEAはもうスキップして、最初から”Everything Architecture”あるいは”Eco-System Architecture”としてプロモートした方が良いのかもしれないと感じました。
5. イノベーションとレジリエンスのためのモダンEA (Modern EA for Innovation and Resilience)
おなじみIasa GlobalのPaul Preiss会長のプレゼンです。フォーカスはアーキテクトのコンピテンシーやエンゲージメントモデルで、つまり同じEAでもヒト、またはプロフェッションの方の話題を取り上げています。アーキテクトとエンジニアとが、役割のオーバーラップを通じて生み出す健全な緊張感が、DXには欠かせない、といったことが述べられています。一つ前のSteve Elseのプレゼン同様、やはりEAでは繋がりと協力で全体価値を発揮することが何より重視されていることが分かります。余談ですが、Paulは”chef of still”とか”skin in the game”といった難しい表現を使いがちで、彼の文書は翻訳が大変です。
6. あなたの統合戦略 (インテグレーション・ストラテジー) はなぜ真のデジタル・アドバンテージ獲得に失敗するのか (Why your Integration Strategy will Fail to Achieve Real Digital Advantage)
先のセッションに続いてIasa Globalのリーダーシップチームの一人であるBrice Ominskiの登壇です。タイトルにある「デジタル・アドバンテージ」は、「デジタル・トランスフォーメーション」の対立概念で、アドバンテージは「状態」ですから、トランスフォーメーションという「イベント」よりもアーキテクチャ的で個人的に気に入りました。同じくタイトルの「インテグレーション・ストラテジー」は、APIにフォーカスしたEA戦略といったところでしょうか。プレゼンにはキーワードしか書かれていないので、特にテクノロジーに関する内容はつかみにくいですが、孤立したメソッドとしてのAPIではなく、かなりハイレベルなビジネス・コンテキスト上でAPIインテグレーションのアンチパターンとその回避方法を語っています。テクニカルな知識をお持ちの方にはさらに多くの発見が得られるかも知れません。
7. ヘルスケアITの複雑性についての議論 (Complexity in Health IT, a discussion)
本講演のプレゼンのコピーは未入手なので、内容はセッションの紹介文からの推測ですが、本質的に分散型かつ複雑である医療システムが、コロナ禍という突発事象に対処することが、アーキテクチャ無しではいかに困難か、また、将来の課題に対応するためにアダプティブなシステム思考・デザイン思考がいかに大切か、などが論じられたようです。先の6番目もそうですが、かの地における「アジャイルでアダプティブなアーキテクチャ」への関心の高さがうかがえます。
8. 実際的な未来主義者 (フューチャリスト) としてのエンタープライズ・アーキテクト (Enterprise Architects as practical futurists)
ITABoK「ビューとビューポイント」の執筆者のひとりでもあるTom Gravesのプレゼンです。タイトルにあるように「実践的未来主義者」として未来に挑むアーキテクトの役に立つツールとして、15ものフレームワークを紹介しています。またいかにもプロフェッショナルなEAらしく切れ味鋭い言葉も随所に見られます。個人的には”Enterprise architecture is all about change ”、”‘Futures’ is a plural, not singular”、そして”Reduce uncertainty in Plan; resolve uncertainties in Action”などがお気に入りです。いろいろなフレームワークのリファレンスガイドとしても実用的で、是非ご一読をお勧めします。
9. 戦略から実行へ – ミッシング・リンクをマスターする (From Strategy to Execution - Mastering the Missing Link)
Business Architecture GuildのMike Rosenのプレゼンです。冒頭にミンツバーグやマイケル・ポーターと並んで、何やらカッコいい英文が引用されていて、何かと思ったら宮本武蔵の五輪書の一文でした。タイトルにもあるように”Strategy to Execution (‘S2E’)”、つまり「戦略から実行」のポイントを、Business Architecture Guildのテキスト”BIZBOK Guide”も引用しながら解説しています。戦略が上から下に2~3段降りると、その意図やコンテキストは半分くらい失われてしまう、というシチュエーションは、日本だと中期計画などの「ポンチ絵」と、その実行の「現場に丸投げ」という形でよくみられるのではないでしょうか。プレゼンの締めはケインズの箴言で、「難しいのは新しい発想ではなく、古い発想から逃れることだ」というのは、まさに今の日本の状況に当てはまるものと感じます。
10. エンタープライズ・アーキテクチャをビジネス戦略に基づかせること:アーキテクトのための4つの教訓 (Basing Enterprise Architecture on Business Strategy: 4 lessons for Architects.)
メルボルン大学の教授によるリサーチ結果の発表です。EAはビジネス戦略に基づくはずなのにどうして失敗するのか、というシンプルな疑問に端を発し、当事者へのインタビューなどを通じて、戦略がEAの役に立たない原因が4つ特定できたそうですが、その中身を見ると、戦略が1) 漠然、未確認、または存在しない、2) ITの方向性を明確に示せない、3) 不安定で頻繁に変わる、4) 戦略に特化した再利用不能なITシステムを要求する、という、割と普通な内容にとどまっている感じではあります。9番の講演内容にも相通ずるものが感じられますが、こちらの方は実行以前にそもそもポンチ絵がダメ、というケースですね。4)もユーザー企業とベンダーの役員同士で仲が良かったりするときによく見られるケースでしょう。
11. 複雑なシステム:医薬品業界のためのAIデータ・プラットフォームのアーキテクチャ構築 (Complex Systems: Architecting an AI Data Platform for the Pharma Industry)
AI/MLについて多数の著作をもち、複数の企業で様々なAI関連ビジネスに携わるRaj Ramesh博士の講演です。残念ながらプレゼンのデッキは未入手なので、内容の手がかりは紹介文のみになりますが、なんでも現在構築中なのは、「(医薬品ビジネスに関する)データ駆動型の価値あるインサイトを、インジェスト、処理、変換、レポートアウトすることができる」「エンタープライズクラス、スケーラブル、マイクロサービスベース、サーバーレスのクラウドプラットフォーム」だそうで、そこで直面したテクノロジー、ビジネス両方のいくつかの課題について知見がシェアされる、という、AIご専門の方のみならず、EAにご関心のある方にとっても結構興味深い内容だったのではないかと思われます。博士はこのイベントのほかにも様々なコンテンツをYouTubeをはじめとする様々なプラットフォーム上で展開されているようなのでご覧になってみてください。
12. エンタープライズ・アーキテクチャの働き方(WoW)改革 (Modernizing Your Enterprise Architecture Way of Working (WoW))
PMIではディシプリンド・アジャイル(DA)のチーフサイエンティスト、またArchitectural Thinking Associationのアドバイザリーを務めるScott Amblerによる「DAツールキット」と「アーキテクチャ・シンキング・フレームワーク (ATF)」の紹介です。DAは様々なプラクティスの乱立に至ったアジャイルに秩序をもたらすべく生まれ、その際アーキテクチャに関係する概念も取り入れられたようで、例えばアーキテクチャ・オーナー(AO)、バリューストリーム・アーキテクト、エンタープライズ・アーキテクトといったロールが定義されています。そしてアーキテクチャを「資産(asset)」と捉え、丁度良いバランスで「ぎりぎり満足できる (just barely good enough=’JBGE’)」資産を作ることがポイントであるようです。ところでモデリングについては特に触れられていませんが、そういうプラクティスが元々無いのか、それともたまたま紹介されていないだけなのかは若干気になるところではあります。
13. 社会システムのアーキテクチャ構築 (Architecting Social Systems)
オーストラリアはアデレードに拠点をおくコンサルのプレゼンです。紹介文にはアーキテクチャには生物的なもの(会社、社会)と無生物的なもの(ITシステム)があって、それらの特徴を実例を交え解説、とあります。デッキの方は情報量がミニマム、かつふんわりとした内容で、これだけではどのような話だったかは何とも分かりませんでした。
14. デジタル・トランスフォーメーションの落とし穴はどこか? (What are the failure points of Digital Transformation?)
タイムゾーンの関係でオーストラリアが続きます。デジタル・トランスフォーメーション専業のコンサル会社による、何がデジタル・トランスフォーメーションで、その典型的な実現プロセスはどうなっているか、そのどこに失敗ポイントがあるか、EAの適用がどのようにその成功率を高めるか、などについての話だったようですが、これも残念ながらデッキ未入手です。プレゼンターは博士号とTOGAFやArchiMateの資格持ちで、もしモデルなどが紹介されていればぜひとも見たいところです。
15. ビジネスモデル・イノベーションのイネーブラーとしてのアーキテクチャ (Architecture as an enabler of business model innovation)
Jalapeno (ハラペーニョですね) なるITツールを出しているCapsifiという、こちらもオーストラリアの会社です。単なる商品紹介と思いきや、なかなか良いことが書いてあります。今日の「不幸な真実」の一つとして、ビジネス知識はトランスフォーメーション活動(というワンタイム・イベント)「のため(だけ)に」作られ、プロジェクトとともに寿命が尽きる、というのは鋭い指摘ですね。プレゼンではEAを殊さら強調しているわけではありませんが、イベントよりステートを重視するマインドはまさにEAです。余談ですが、デッキの前半にはデジタルによる爆発的なビジネス環境の変化を示すグラフ類がまとめて多数掲載されていて、DX絡みの提案書などを作るとき、リファレンスとして持っておくといろいろ便利かも知れません。
16. エンタープライズ・クラウドの変革パターンと落とし穴 (Enterprise Cloud Transformation Patterns and Pitfalls)
クラウド・エンタープライズ・アーキテクトなる方のプレゼンですが、どうやらオーストラリアの役所関係にどうやってクラウドサービスを売り込むか、という話で、コモディティ化した様々なクラウドプロダクトから、オーダーメード (tailored) サービスを作る、とか、ベンダー管理をどうするとかいった内容が、ビジュアル・ファシリテーションぽい絵や、ビジネスモデルキャンバスなどを使って語られています。EAの観点からは、正直あまり得るものは無さそうです。
17. 問題の種類がそれに対するコントロールの期待値を左右する (The type of problem you are facing steers how much control you can expect)
朝を迎えたヨーロッパ組の最初は、イケアのビジネス・アーキテクトHenrik Ekstamによるプレゼンです。EAはストラテジー、テクノロジーの両方をカバーしますが、ストラテジーは”complex / obvious”、テクノロジーは”complicated / chaotic”という、それぞれ異なる評価軸を持っていて、これらで四象限のマトリクスを成すそうです(※これはCynefin Frameworkという名前であることを、このあとの他のプレゼンで知りました)。問題がどの象限にあたるかによってどれだけコントロールできるかが決まる、というのがタイトルの意味です。EAのコンテキストにおいては、問題課題はかならずしも最初から「これはテクノロジーの問題」とか、「これはストラテジーの問題」とかに一刀両断出来るわけではないでしょうから、このようなフレームで問題を位置付けてみるのは有用かもしれません。ストラテジー的な問題課題はタクティクスに落として解決するのですが、そこではcomplexityやadaptationのためのデザインが、efficiencyのそれより重要だ、と説いています。
18. エンタープライズ・アーキテクチャの利点と課題を探る (Exploring Enterprise Architecture Benefits and Challenges)
メルボルン大学の准教授によるプレゼンです。18人のエンタープライズ・アーキテクトへのインタビュー結果に基づき、EAプラクティスにおける8つの主要プロセスおよび、各プロセスの主要な活動、成果物、便益および制約をわかりやすくまとめています。ただし個人的には、これを読んでEAを「フォーマルな手続きの集まり」と誤解してしまう人が出てこないか少々心配になります。それはプロジェクトであってEAでは無いでしょう。リサーチの結果の一つとして”No ‘general purpose’ EA artifacts are identified’→“と書いてあるのも気になります。ArchiMateなどはその解決のために作られたはずですが、このリサーチでは状況は変わっていないようです。エンタープライズ・データモデルが主要なアーティファクトに挙げられているのがせめてもの救いです。
19.「マイクロチーム」はコラボレーションのやり方を「再び」どう変えるのか (How MICROTEAMS Change the Way We Collaborate. AGAIN.
オランダのQubyという、IoTやAIで省エネソリューションをB2B/B2Cに提供するという、非常にモダンな企業でCIOを務めるSander Hoogendoornのプレゼンです。ダンレポを見たら、なんとultimate parent companyにDiamond Chubu EUROPE B.V.とあり、それで検索したら「三菱商事と中部電力がEneco買収」という、今年3月25日のニュースに突き当たりました。Enecoは彼の地ではガス電力の小売事業者として知られていますが、Qubyはそこの子会社と思われ、そうするとダンレポの「100人、10億円」というのは末端のグループ会社としては有り得る規模でしょう。この規模であれば、プロジェクトマネジメントどころかSAFeまで全否定して、究極のアジャイルに向けて突き進む姿勢も、またアーキテクチャについても、逆コンウェイの法則で、ビジネスアーキをテクノロジーアーキに合わせる、という考えも理解できます。今は100人10億円ですが、これがスケールしてGAFAのようになれば本物でしょう。しかしこういうビジネスもちゃんと日本企業が買っているというのも新鮮な驚きです。余談ですが、このスライドでもcomplex/chaotic/complicated/obviousのフレームが登場します。Cynefin Frameworkというのですね。日本語ではクネビンとかカネヴィンとかの読みが当てられているようです。課題分類のフレームワークとして様々な分野で使われ、アジャイル開発でも良く知られてたフレームワークだそうで、一つ勉強になりました。
20. アーキテクトとして複雑性に対峙すること (Facing Complexity as an Architect)
イギリスのコンサルタントによるプレゼンです。紹介文によると、テクノロジー・システムが今までの「経験的行動の自動化」から「予測可能性を組み込むことによる結果の導出」に用いられるようになった現在、そのシステムが安全で信頼でき長期の使用に耐えるものとするために、そのシステムやソリューションの複雑性にアーキテクトが向き合う方法について語られているようです。複雑性に関するフレームワークとして、ここでもCynefin Frameworkが取り上げられています。また、「ブラック・スワン」「アンチフラジャイル」「デザイン・ストラクチャ・マトリクス(DSM)」などの理論が紹介されています。講演ではおそらくより実践的なテクニックなどが語られたのではないかと察しますが、「文字数少な目」なデッキからは、アーキテクトという仕事でもやはりその土台となるのは思想や哲学といった教養、素養であることが伺えます。
21. エンタープライズ・アーキテクトにとっての感情的知性の重要性 (The importance of Emotional Intelligence for Enterprise Architects)
エンタープライズ・アーキテクトに対し、専門的なコーチング・プログラムを提供しているオランダの方のプレゼンです。これまでから一変したソフトな話題です。内容は紹介文によると、組織に対するアーキテクトの影響力の乏しさがまず課題としてあり、それはスキルなどよりも仕事のエモーショナルな側面における低評価に起因するものである、として、エモーショナルな面での能力開発の重要性を説く、というものです。能力開発のアプローチとして、自分自身もアーキテクチャ的にとらえるのは非常に面白いアイデアです。全体に「文字数少な目」なスライドですが、訓練する対象がいろいろ列挙されています。20番でFBIの交渉テクニックとして紹介されていた「偏桃体ハイジャック (amygdala hijack)」も挙げられています。最後のスライドはコンタクト情報で、彼らのサービスを買えばエモーショナル・インテリジェンスの具体的向上が図れます、というご紹介でした。
22. スピーディーなEA:「ミルキーウェイマップ」と「エンタープライズ・デザイン・スプリント」で飛び越える (EA on Speed: rapid leaps with a Milky Way Map and Enterprise Design Sprints)
スウェーデンのirmなるコンサル会社のプレゼンです。デザインシンキングに基づくチームコラボレーションでのエンタープライズ・デザイン・ワークショップと、そこで用いられる独自ツールとメソドロジーの紹介です。ホームページでスターターキットを無償で提供しているので、気になる方はどうぞ。(https://www.enterprisedesign.io/)
23. パニックで反射的に行動してはならない。経済危機の際の削減施策におけるデータドリブンなアプローチ (Don't Panic and React. A Data-Driven Approach to Making Those Cuts During Crises)
舞台はアメリカに戻り、アトランタからのプレゼンです。プレゼンターは目下の危機について、過去にも何度も危機的状況は起きていて、それに対しパニックに陥り反応(react)するのではなく、評価(evaluate)し対処(respond)することが重要だと説きます。そして具体的なプロセスとして、デマンド、キャパシティ、コスト、バリューに関する正確なデータを集め、それらに基づく構想をフレームワークを活用して立案し、そこからデータドリブンなストリーテリングのナラティブを書き上げる、という手順を紹介しています。エンタープライズ・アーキテクトは、プロジェクト・ベースではなく、自社のEAと日常的に向き合い、ストラテジーからオペレーションを経てテクノロジーに至るまで、自分の会社の全てを知っていることが強みですが、それは事業成長だけに限らず、危機的状況でのダメージ軽減にも役に立つという、とても重要なポイントに改めて気付かされました。
24. 開発組織のアプリケーション・セキュリティ成熟レベルの向上 (Maturing Application Security in Development Organizations)
24時間ウェビナーのトリを務めるのは米国アトランタ在住のプレゼンターです。世界中に拠点をおくオランダWolters Kluwerの税務・会計部門のチーフ・アーキテクトで、長年にわたるIasaフェローでもあります。ウクライナ出身でアメリカの大学で博士号をとり、様々な企業でキャリアを積んでこられたようです。ここではマイクロソフトでの6年間のアプリケーション・セキュリティ・プログラムでの経験に基づき、開発組織にセキュリティに関するプロセスやプラクティス、ツールセット、スキルとコンピテンシーをビルトインし、成熟度を高めるステップを紹介しています。これまでのプレゼンテーションとは異なり「文字数多め」で、トピックにご関心のある向きには読み物として有益でしょう。
以上全24セッションの非常にざっくりした概要のご紹介でした。全体的な印象として、「アジャイル/アダプティブ/レジリエントなEA」が最大の関心事 (セッション1、3、6、7、8、12、14、15、17、19、20)で、これには「複雑性を増していく世界」という状況認識(セッション1、3、7、11、17、19、20)が関連しているようです。これらに「EAのプロフェッションとしての認知度向上」 (セッション4、5、23) が続いているようです。ビジネスとテクノロジーどちらのマネジメントによりフォーカスしているかについては、ビジネスが13 (セッション1、3、4、5、8、9、10、17、18、21、22、23)、テクノロジーが7 (セッション6、11、12、14、15、19、20)、不明が4といったところでしょうか。コロナ・パンデミックの話題は4、7、23の3つのセッションで取り上げられていました。
この24時間ウェビナーは、EAの世界で今どんな議論が起きているのかを知るのに絶好の機会だと思います。Iasa Globalでは今後も同様のイベントを引き続き年2回開催する予定とのことで、Iasa日本支部からも参加、聴講していきたいと思います。
※ 本コラムについてのご意⾒ご感想お待ちしております。
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