top of page

BTABoK/Legacy Modernizationの紹介

  • 執筆者の写真:  西山 達也
    西山 達也
  • 6月13日
  • 読了時間: 12分

今回はBTABoKのオペレーションモデルでとりあげられているLegacy Modernization(レガシーモダナイゼーション)についての紹介と筆者の思いをコラムにしてみました。BTABoKの記述の中でも、力作と言ってよいかと思いますが、少し長文であり、ここでは一部省略し意訳してお伝えします。全文は下記を参照ください。

BTABoKでは冒頭で以下のようにLegacy Modernizationを解説しています。

==================================================================

レガシーモダナイゼーションとは

アジリティの高い組織にするためには、競争優位性を保ち、変化に迅速に対応することが重要となります。しかし、レガシーシステムはその妨げとなることが多く、モダナイゼーションにより、業務効率やコスト効果を高め、新たなビジネス機会やセキュリティ強化、パフォーマンス向上を図る必要があります。特に老朽化したシステムはセキュリティリスクや処理能力の低下を招くため、早期の対応が重要となります。

モダナイゼーションとは、システムが「目的に適合」した状態を維持し、価値の提供とコストのバランスが保たれるようにシステムを変更するプロセスです。

レガシーとは、古い技術や機能を持つ既存システムの老朽化を指し、もはや組織の業務に適合しなくなっており、システムはまだ価値を提供しているかもしれないが、もはや効率的ではない状態であります。レガシーモダナイゼーションとは、レガシーシステムに変更を加えることで、組織により現代的で効率的なソリューションを提供するプロセスです。

==================================================================

レガシーモダナイゼーションは、多かれ少なかれ、多くの企業・組織で問題となっており、避けて通れない道と言ってもいいでしょう。BTABoKでは、以下にその必要性について言及しています。まずは、その内容を見ていきましょう。

==================================================================

優れたレベルのアジリティを持つ組織は、実質的な競争優位性を持っています。アジリティによって、組織は周囲の環境に素早く反応し、変化することができます。優れたレベルのアジリティを達成するためには、組織を支えるシステムもまた、周囲の環境に 素早く反応し、変化しなければなりません。

レガシーシステムは、しばしば変更が困難であったり、ビジネス活動のサポートが非効率的であったりするため、アジリティに制約を与えてしまいます。これは珍しいことではなく、システム設計時には、もはや存在しない技術的な制約があったり、もはや適切でない特定の仕事のやり方に合わせてシステムが設計されていたりします。

レガシーモダナイゼーションは、レガシーシステムを変更またはリプレースし、組織をより効率的でコスト効率の高いものにします。これにより、既存のビジネスプロセスを最適化できるだけでなく、新たなビジネスチャンスを開くこともできます。

セキュリティは、レガシーモダナイゼーションの重要な推進要因です。組織に対するサイバー攻撃は一般的で、時間の経過とともに巧妙になっています。システムのセキュリティは時間の経過とともに低下し、レガシーシステムにはもはや最新の攻撃手法を阻止するために必要なサポートや技術がない可能性があります。これは組織にとって重大なビジネスリスクとなります。

レガシーシステムが古くなると、多くの場合、技術の制約によってパフォーマンスに制約が生じます。これは、システムの処理時間と容量が限られているため、組織が価値を提供する能力に影響します。レガシーモダナイゼーションは、性能を強化させたり、その他の非機能的特性(高可用性、回復力など)を改善する方法を提供することを可能とします。

==================================================================

以上、ビジネスのアジリティを目指すには、レガシーの制約から逃れるとともに、セキュリティ環境の充実の為にも、レガシーモダナイゼーションが必要となっていることを訴えています。近年言われている「ゼロトラストベースのレガシーモダナイゼーションの実現」が求められているのです。また、性能などの非機能要件についてのアップグレイドも、モダナイゼーションの必要性の大きな要因となっています。


次に、BTABoKはレガシーモダナイゼーションを計画するにあたってのポイントと考慮すべき点について述べています。

==================================================================

◆持続可能性の促進

持続可能性は、システムの寿命を延ばすための重要な品質属性です。アーキテクチャの持続可能性を確保することは、現在の期待に応えつつ、将来の期待を損なわないことを意味します。これは容易なことではありませんが、おそらく適切な技術選択を行うことが鍵となるでしょう。例えば、新しい魅力的な機能を備えた最先端の技術を選択することは、短期的な優位性をもたらすかもしれませんが、数年後にはサポートが終了し、持続可能性を損なう可能性があります。

◆過去の投資ではなく、価値を測定する

システムやテクノロジーの価値とは、ビジネス価値を効果的に提供するために、それが組織をどの程度サポートしているかということです。システムが価値提供を効果的にサポートしなくなっても、システムに投下された投資額のために、財務上の問題が生じ、廃止や移行に躊躇することがあります。しかし、それはビジネスにとって重荷であり、過去の投資にかかわらず、モダナイゼーションすべきであります。

◆変化を受け入れる

モダナイゼーションは、テクノロジーやシステムだけの問題ではありません。これらの人々が近代化の旅に参加し、スキルを更新し、新しいやり方を学び、新しいプロセスとテクノロジーを形成することが重要です。そうすることで、最新テクノロジーや新システムへの移行が容易になります。この扱いが悪いと、人々は排除されていると感じ、保護主義的になる可能性があるため、モダナイゼーションは抵抗にあう可能性が高いと言えます。

 ==================================================================

以上、3つのポイント①持続可能性の確保②ビジネス価値の重視③変化への人々の対応について、留意点を述べています。それぞれ、深い考察と慎重な対応が必要かと思います。特に、財務上の問題は経営的観点からの対応が必要となり、減損の取り扱いなどは投資家や金融機関などへの配慮も必要となります。


 さて、実際にレガシーモダナイゼーションを行うとすれば、いつ行うべきなのでしょうか。BTABoKは、以下のような時期が適切であると述べています。

==================================================================

 モダナイゼーションの計画の重要な要素の一つは、システムが「レガシー」と称される閾値に近づいていることを認識することです。この状況をできるだけ早く認識することで、リスクを軽減し、適切な対応を取るための時間を確保できます。以下は、システムがレガシーステータスに近づいていることを示す指標の一部であり、現代化が必要となる可能性が高い状況です。

おそらく最も簡単に気づける特徴の一つは、その技術がサポートを終了したか、サポートが段階的に廃止されている点です。技術プラットフォームを選択する際は、この点を考慮することが重要です。サポートが急速に失われるプラットフォームを選択すると、モダナイゼーションの必要性が高まるためです。

◆スキル調達

適切なスキルを持つ人材を、システムのさらなる開発や維持管理に充てるのが困難な状況は、レガシー技術の存在を示す指標となることがあります。技術が老朽化すると、技術コミュニティはより新しい魅力的な技術に傾倒し、古い技術に関するスキル市場は縮小し始めます。組織が使用する技術に対して、健全なスキル基盤が確保されているかどうかを市場動向を監視することは賢明です。可用性問題が発生したり、コストが大幅に上昇したりする場合は、モダナイゼーションの計画を策定する必要があります。

◆セキュリティ

老朽化したシステムは、年数が経つにつれてセキュリティを確保するのが困難になります。さらに、スキルに関する点とも関連して、スタッフがシステムを管理し、そのセキュリティを確保できなくなり、システムは未知で管理不能な状態に陥った時点で、システムはモダナイゼーションを計画すべきです。

◆ビジネス価値の提供

組織が競争力を維持するためには、一定の価値提供水準を維持する必要があります。市場は静止したものではなく、競合他社は常に基準を向上させていくため、組織は市場に適応する必要があります。システムのライフサイクルにおいて、組織の業務形態は変化する可能性がありますが、過去の業務形態に合わせて設計されたシステムは残ったままになります。

 これにより、競争力のある価値提供を確保するために、組織は多大な努力を要する可能性があります。システムがビジネスのニーズと一致していない場合、システムをビジネスと再一致させるためのモダナイゼーションの計画が検討される必要があります。

◆変化への対応能力

組織とその事業は時間とともに変化するため、組織内のシステムも変化する必要があります。これにより、効率的な事業支援を提供できるようになります。システム変更にかかるコストと時間は、組織にとって重要な要素です。

 組織のシステムは、事業と同じ速度で変化に適応する必要があります。システムが変更に時間がかかったり、コストが高くなったりした場合、そのシステムはモダナイゼーションの対象となる可能性があります。

◆ボトルネックの発生

システム環境には多くの先進的なシステムが含まれる場合がありますが、単一のレガシーシステムがバリューストリームやビジネスプロセスにおけるボトルネックを引き起こす可能性があります。業務の流れにおいて、上流のレガシーシステムの存在は、下流の先進的なシステムのメリットを阻害したり、その効果を低下させたりする可能性があります。

 ボトルネックにおいて作業や努力が集中し、より優れたサポートや容量を有する他のシステムが単純に活用されない状況が生じます。これらのボトルネックを特定することは極めて重要であり、ボトルネックが下流のシステムが潜在能力を最大限に発揮するのを妨げるためです。

◆容量の制限 

技術は急速に進化しており、処理能力やストレージ容量といった技術の容量は継続的に向上しています。古い技術は、特定のプラットフォームやハードウェア向けに設計されたため、制限がある場合があります。これにより、組織が管理できるデータ量や、販売注文や販売データ分析などへの対応速度において制限が生じます。

==================================================================

これらの要因が現れるときは、遅きに失していることも考えられます。サポート切れの時も、人材についても、対応すべき時期はほぼ分かっているですから、モダナイゼーションのプランニングは可能です。 できれば、新システムを構築するときには、そのシステムがレガシーとなることを前提に、モダナイゼーションのプランを考えておくという事も必要ではないでしょうか?

さらに、BTABoKでは、アプリケーションシステムをポートフォリオ管理することで、システムのライフサイクルの終盤を判断することが出来るとしています。指標を設けモダナイゼーションの対象を分類し、GartnerのTIMEモデルを活用してそれぞれの対応の方向付けをすることが出来ます。

==================================================================

 アプリケーションポートフォリオ管理の手法は、アプリケーションの全体像を監視し、コストと価値を評価するために使用できます。コストが価値に見合っているかどうかを評価するため、各システムを評価するための指標セットを使用できます。アプリケーションを測定するために使用できる一般的な指標は次のとおりです:

・使いやすさ

・将来性のある技術

・サポートの可用性

・専門知識の可用性

・ユーザー数

・ビジネス上の重要性

これらのメトリクスでの低評価は、アプリケーションやシステムがライフサイクルの終盤に差し掛かっていることを示唆します。この情報は、ポートフォリオからアプリケーションを藻モダナイゼーションのまたは廃止するための活動を計画するのに活用できます。レガシーモダナイゼーションを戦略的に監視し計画するための方法として、GartnerのTIMEモデルが利用可能です。TIMEモデルは、ポートフォリオ内のアプリケーションをビジネス機能ごとに分類します。アプリケーションは次のように分類されます:

Tolerate(許容) 大きな問題がなければそのまま使用。

Invest(投資)   モダナイゼーションやクラウド移行など、積極的に投資して強化。

Migrate(移行) 他のソリューションやプラットフォームへの移行。

Eliminate(廃止) コストやリスクに見合わないため、使用停止・廃止・統合。

企業のアプリケーションシステムは、開発し続けて、多様な構造になっています。BTABoKではそれぞれをこのような指標で評価し、GartnerのTIMEモデルにより、モダナイゼーションの優先順位付けを行い、レガシーモダナイゼーション計画の意思決定につなげていくことを勧めています。

それでは、レガシーモダナイゼーションを実現するには、どのように進めれば良いのでしょうか?      BTABoKではそのための戦略を示してくれています。

◆リエンジニアリング

レガシーシステムのリエンジニアリングは、システムの主要な部分を再設計または変更する大規模な技術的改修を伴うことが多くあります。この戦略は、システムの機能が組織にとって依然として価値があるが、メンテナンスコストが高額である場合や、技術的なサポートが不足している場合に有効です。実践では、次のような結果が生じる可能性があります:

・レガシープログラミング言語を現代のプログラミング言語へ移行

・特定の機能やモジュールの完全な再設計

・プラットフォームやサードパーティコンポーネントのモダン化

・アーキテクチャ層(例:データ管理やプレゼンテーション)のモダン化

◆クラウド移行

組織がレガシープラットフォームを改善するための一般的な戦略は、アプリケーションをクラウドベースのプラットフォームに移行することです。ハードウェアや運用要員に関連するコストを削減することが目的です。クラウド環境でシステムを実行するもう一つの利点は、必要に応じて容量を迅速にスケールできる点です。

◆データ移行

モダナイゼーション戦略の一般的な手法として、レガシーシステムを新しいシステムに移行する手法があります。これは、レガシーシステムに格納されたデータが組織にとって依然として非常に価値がある場合に実施されます。新しいシステムを購入または開発し、レガシーシステムからデータを新しいシステムに移行します。この戦略は、最新技術を備えた新しいシステムを提供しつつ、レガシーシステムから価値あるデータを維持します。

◆廃止と置き換え

一部のケースでは、レガシーシステムが単純に寿命を迎えます。歴史的データはほとんど価値がないとされ、組織が必要とする機能を提供する現代的なシステムで置き換えられます。レガシーシステムは廃止され、アーカイブされます。レガシーシステムからのデータが必要な場合は、アーカイブから取得可能です。

==================================================================

このように、BTABoKでは、レガシーモダナイゼーションに関する知見や実現する上での戦略と共に、多くの留意点を示してくれています。実務で対応が必要な際は、是非原文を参照してみてください。



また、これらを含めたBTABoKの理解を深めたい場合は、Iasa日本支部で開催しているセミナーや勉強会に参加ください。直近では、会員向け限定で公開した動画を教材としたオフライン交流イベントも企画しています。近々にご案内いたしますので、是非参加いただければと存じます。よろしくお願いいたします。

以上

Commentaires


bottom of page