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BTABoK  Governance ~ガバナンスとアーキテクチャ~

前回までのコラムでは、BTABoKにおける全体像(下図参照)のうち最も外側にあたる層(アウトカムモデル)のエコシステムやエンゲージメントなどについて解説してきましたが、今回はオペレーティングモデルの層にあるガバナンスについて、見ていきたいと思います。



BTABoKではガバナンスを以下のように定義しています。


"ガバナンスとは、組織を管理するための枠組みを提供するシステムである。誰が意思決定を行い、誰が組織を代表して行動する権限を持ち、組織とその人々がどのように振る舞い、実行するかについて誰が責任を負うかを明らかにするものである。


ガバナンスとは何かについては多くの定義がありますが、ここでは、組織が一連の規範、価値観、および方針に従って運営されることを可能にする構造とプロセスの枠組みであるとしています。

さらに、ガバナンスを強める必要のある組織について述べており、強さによってアーキテクチャのあり方が影響されるとしています。


これらの規範、価値観、方針は、組織や組織が関与する産業部門に特有のものである可能性があります。例えば、規制の厳しい事業分野の組織は、ガバナンスの枠組みも強固である可能性が高いのです。なぜなら、不適切な業務や意思決定の結果が深刻なものになる可能性があるからです。

医療、製薬、原子力、銀行などの分野を考えてみると、不適切な意思決定の結果、人命が失われたり、多額の金銭的損失が生じたりして、より高い範囲の経済問題につながる可能性があります。

ガバナンスは同じ理由でアーキテクチャにも適用され、組織におけるガバナンスの強さは、事業分野とリスクによって決定されると思われます。また、アーキテクチャがしっかりしている組織はガバナンスがしやすいので、アーキテクチャの良し悪しもガバナンスにとって重要であります。


そして、良きアーキテクチャが、組織そのものをしっかりしたものにするとも述べています。アーキテクトが組織やそのガバナンスにも大きな影響を与えることとなるのです。もう少し、ガバナンスとアーキテクチャについての論述を見ていきましょう。


アーキテクチャの実践においては、優れた倫理観とプロフェッショナリズムの文化を推進するために、効果的なガバナンスが重要です。良いガバナンスを実行することで、ステークホルダーが期待する水準で業務を遂行する信頼できるアーキテクチャを実践することができます。

ガバナンスは、アーキテクトがアーキテクチャを開発する際の意思決定を支援するものであります。ガバナンスは、アーキテクチャに関する与件の理解を容易にし、アーキテクトが重大な悪影響を及ぼす誤った意思決定をしないように支援します。


ガバナンスが、アーキテクトが守るべきレギュレーションを示してくれ、正しい方向に導いてくれると述べています。BTABoKでは、ガバナンスはステークホルダーのビジネスに合わせ柔軟に発展させる必要があるとも述べています。


ガバナンスの枠組みは、確固たる基準と原則を促進するだけでなく、ガバナンスが実用的であることを保証するために、ステークホルダーからのフィードバックに基づいて、柔軟に発展させる必要があります。早い段階からステークホルダーと関わることで、より押し付けがましくないガバナンスが形成され、より広く受け入れられるようになります。

アーキテクトの役割は、アーキテクチャがガバナンスを考慮し、ビジネスの目的と一致するようにすること、そして結果として実装がアーキテクチャに準拠するようにすることです。


ガバナンスの必要性についての論述を見てきましたが、ガバナンスの行き過ぎにより、組織が"警察国家 "のような状況となることについて警告を発しています。


 ガバナンスは、組織が適切な意思決定を行うために利用されます。しかし、ガバナンスの実践が不適切だと、「警察国家」のような文化が形成される可能性があります。

ステークホルダーは管理されていると感じ、なぜポリシーやプロセス、アーキテクチャに従わなければならないのかがわからなくなる可能性があります。

良いガバナンスを実践するには、組織がガバナンスを伝え、動機付けする必要があります。これは、メンタリングとトレーニングによって実現できます。


 ところで、ガバナンスはアジリティにおいては、足かせとなるとの言説もありますが、逆にBTABoKでは、役立つと考えられています。


アジャイルの実践では、ガバナンスがマイナスとみなされることがあります。これはおそらく、意思決定をできるだけアジャイルチームに近いところに置くという原則に反するからでしょう。しかし、ほとんどの業界では、各チームが組織全体に影響を与える決定に責任を持つと考えるのは非現実的です。 ガバナンスがうまく機能すれば、意思決定プロセスにおいてチームを支援し、コミュニケーションのための構造とプロセスを提供することで、アジリティを促進することができるようになります。


 ここまで、ガバナンスとアーキテクチャについての関係を中心に見てきましたが、ガバナンスにおける主体と客体の構造を明確にすることと責任の所在の重要性について述べています。


どのような組織においても、戦略や目標を、ソリューションアーキテクチャや全社的なアーキテクチャなど、組織内のさまざまなアーキテクチャと整合させることが重要です。これを促進するためには,誰が意思決定を行い,誰が責任を負い,誰が実行に責任を持つかについて,明確な構造が必要です。

これがないと、アーキテクチャ作業を主導し、一連の首尾一貫したアーキテクチャを提供することが困難になる可能性があります。また、責任と説明責任に関する明確な仕組みがなければ、利害関係者の信頼を得ることが難しく、意思決定を本来の動機まで遡ることが難しくなるかもしれません。


 組織のガバナンスが良い状態に保もたれていることは、アーキテクトにとっても必要条件となります。より良くするには企業単独では限界があり、業界としての基準や規範も必要となります。BTABoKでも以下のように指摘しています。


ガバナンスでは、アーキテクチャの開発における作業の指針として、基準や規範を示すことができます。たとえば、倫理的基準、環境基準、技術基準などです。これらは組織に固有のものではなく、業界標準とみなすこともできます。

規制のある業界では、規制への準拠がビジネス上重要であることが多いため、これらの基準や原則は厳しいものになる可能性があります。したがって、アーキテクトがアーキテクチャのガバナンスの意味を理解することは、非常に重要です。


 以上のようなことからも、アーキテクトはガバナンスの観点からも所属する組織を越えて、知見を広げることが求められています。そのひとつとして、Iasa日本支部の活動に参加いただき、各方面の方々との交流を深めて頂ければと思います。昨年度から継続しています「ArchiMate」の勉強会や2023年度から予定しています「ビジネスアーキテクチャ」や「UI/UX」についての勉強会への参加をお待ちしています。最後までお読みくださりありがとうございました。

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