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執筆者の写真松井 淳

BTABoK:Extended Team ~拡張チームで実現するデジタル変革~

デジタル変革が企業活動の中心的課題となる中、情報処理推進機構(IPA)が提唱するデジタルスキル標準をご存じの方も多いでしょう。それには、ビジネスアーキテクトやデータサイエンティスト、デザイナーなど、さまざまな類型のスキルを有する人材が組織の競争力を支える存在として位置付けられています。これらの人材が専門的スキルを発揮しつつ、横断的なチームとして協働することで、企業の技術戦略や業務プロセスを高度化することが求められています。



今回紹介する「拡張チーム(Extended Team)」の考え方は、BTABOKピープルモデルの主要な概念であり、デジタルスキル人材の活用にも寄与すると考えます。拡張チームとは、正式なアーキテクチャチームの枠組みを超えて、開発リードやビジネスアナリストなどの役割を巻き込み、組織全体でアーキテクチャ実践を推進する手法です。このモデルは、スキルや知識を持つ個々の人材が、より広い視点で組織の技術的および業務的課題に取り組む場を提供します。 ***

拡張チームとは 拡張チームとは、正式なアーキテクチャチームに限定されず、組織全体のさまざまな役割を活用してアーキテクチャ実践を推進する取り組みです。このモデルは、開発リード、ビジネスアナリスト、プロジェクトマネージャーなど、他部門のメンバーを含め、組織全体の視点で課題解決と戦略実行を目指します。拡張チームは、アーキテクチャチーム以外の人材を含め、組織全体でアーキテクチャ戦略を形成し、実行するための取り組みです。これによって、次の利点が期待できます。

組織全体のカバレッジ向上:専門チームのリソースを補完し、プロジェクトや能力ポートフォリオの広範囲なサポートを実現。 意思決定の分散化:各部門やプロジェクトにおける迅速で適切な技術的意思決定を可能に。 自己指向型チームの育成:メンバーが自身の役割を超えて戦略的な視点を持つよう奨励。


拡張チームの重要性と課題

拡張チームモデルの重要性には、特に以下の点があげられます:

リソースの不足に対応する柔軟性:多くの組織ではアーキテクチャチームの規模が小さく、すべてのプロジェクトや活動をカバーするのは難しいのが現状です。拡張チームは、組織内のさまざまな役割を活用することで、リソース不足を補い、プロジェクトや能力ポートフォリオ全体を効果的にサポートします。

分散型意思決定の推進:アーキテクチャに関する意思決定を特定のチームや個人に集中させるのではなく、拡張チームを通じて分散化することで、迅速で適切な意思決定が可能になります。これにより、現場に近い視点を活かした判断が実現します。

統合的なアプローチの促進:拡張チームモデルを導入することで、組織全体がアーキテクチャ実践に統合的に取り組む姿勢が育まれます。これにより、部門間の連携が強化され、デジタル変革の実現に向けた一致団結したアプローチが可能となります。

戦略的価値の最大化:拡張チームにより、戦略的なアーキテクチャ能力を広範囲に展開し、技術投資や業務プロセス改革の優先順位付けを全社的な視点で最適化することができます。

拡張チームは、プロジェクトや能力ポートフォリオ全体をカバーするのに十分な数のアーキテクトがいないため、多くの組織で形成されます。特にアーキテクチャ成熟モデルの初期段階では、多くの組織が拡張チームモデルを採用しています。それにより、拡張チームとして課題を抱える可能性もあります。例えば、これらの組織では開発リードやアジャイルチームがプロジェクトのための技術投資を決定することがよくあります。局所的に最適化された成果物が生まれ、組織内で他の投資と重複したり、さらには同じような取り組みが繰り返されることもあります。その結果、膨大な作業の重複、複雑すぎるシステム、そして不適切な投資決定が発生することがあります。さらに、ほとんどの開発チームは、組織にとって何が最適かを正確に判断するためのビジネススキルに欠けています。他の拡張チームの役割も同様の課題に直面しています。例えば、PMO(プロジェクト管理オフィス)は、技術的な深みが乏しい個人によって決定されたビジネス目標に基づいてプロジェクトを優先する傾向があり、その結果、多くの重要な要素がロードマップから外されてしまうことがあります。 したがって、拡張チームモデルを成功させるには、組織がかなり高い成熟度に達していることが必要です。例えば、以下のような観点での成熟度が求められるでしょう。 分散型意思決定の観点:意思決定をエンタープライズの末端に近づけることで、市場変化への迅速な対応や顧客ニーズへの適合が可能になります。ただし、従来のエンタープライズレベルでの説明責任や最適化が犠牲になるリスクもあります。拡張チームでは、パートナーがトレーニングや指導を通じてアーキテクチャスキルを習得し、迅速な対応と全社的な最適化を両立させる仕組みが求められます。

カバレッジとエンタープライズの観点:すべての重要な投資について情報に基づいた価値ある意思決定を行う能力が必要です。エンゲージメントモデルでは、意思決定プロセスを追跡可能にし、アーキテクチャ的な判断を組み込むことが目標となります。 ジャスト・イン・タイム・アーキテクチャの観点:意思決定を可能な限り遅らせ、客観的証拠に基づいた選択を行う実践です。これにより迅速なシステム提供が可能になりますが、大規模なプロジェクトでは慎重な管理が必要です。経験豊富なアーキテクトをフルタイムで配属することが成功の鍵となります。

パートナーロールのエンパワーメントの観点:成熟したアーキテクチャプログラムでは、他の役割を支援し、競争関係を排除します。このアプローチは、デジタル戦略やデリバリーへの集中を補完し、エンタープライズ全体の価値管理やイノベーションを強化します。

拡張チームへのアプローチ

拡張チームを構築する第一歩は、アーキテクト自身の実践者から始まります。そしてその一歩を拡張チームにつなげるためのアプローチを紹介します。

信頼性の構築:拡張チームをチームの一部として扱い、組織内で信頼性と合意を構築する必要があります。信頼性が欠ける場合、隠れた敵意や対立が生じる可能性があります。リーダーを特定し、適切にトレーニングや指導を行うことが重要です。

構築し、所有し、統治しない:アーキテクチャは創造的な機能であり、監督プロセスではありません。拡張チームはイノベーションとデリバリーに集中し、ガバナンスやレビューの役割を最小限に抑えるべきです。

「Yes」を基盤とした文化の構築:組織に対して「No」と言う場面を減らし、「Yes」と言える分野に焦点を当てることが重要です。信頼性と価値が認識されれば、投資と優先順位のバランスを取ることが可能になります。

アジャイルチームとの協働とデリバリー中のアーキテクトの役割:アジャイルとアーキテクチャは相互補完的であり、アーキテクトがチームに深く関与することで、デリバリーと価値創出の最適化が可能になります。価値あるアジャイルアーキテクチャ実践の条件とは以下のようなことです。  - チームがアーキテクチャの価値を理解していること。  - アーキテクトがデリバリーに深く関与していること。  - アジャイルリーダーがアーキテクチャスキルを習得していること。  - アーキテクトのプロジェクトや製品への明確な割り当て。  - 強力な指導やパートナーシップモデルの存在。  - エンゲージメントモデルの適切な成熟度。

拡張の原則:アーキテクチャは他の役割の上にあるのではなく、異なる機能を持つものです。エンゲージメントモデルでは、十分なスキルを持つ他の役割が責任をカバーする必要があります。

*** まとめ 拡張チームは、限られたリソースを補完しつつ、より多くの人材を巻き込み、戦略的なアーキテクチャ実践を実現します。組織がこのモデルを効果的に採用することで、技術革新と業務プロセスの高度化が促進されるでしょう。Iasa日本支部は、アーキテクト人材のスキル啓蒙やコミュニティ活動の拡大に積極的に取り組んでいます。このような活動を通じて、拡張チームモデルを導入する組織への具体的なサポートにも貢献できればと思います。このようにIasa日本支部の活動が、アーキテクト人材の育成とデジタル変革の加速に大きく寄与することをご期待ください。

 

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