BTABoKが拓くアーキテクチャ実践の新時代

振り返ると、ここ数年で皆様の生活も大きく変わったかと思います。まず何よりも、長引くコロナ禍。しかし、その大変さを少しでも軽減してくれたのはテクノロジーでした。テクノロジーに支えられた研究は、記録的な速さでワクチンの発見、供給、製造を可能にし、同時に、他の方法では不可能な自由を私たちに与えてくれました。オンラインやチャットによるコミュニティは、私たちの孤立感を和らげてくれました。数え上げればきりがありません。このことは、テクノロジーがもはや裏方の仕事ではないことを世界に示したと言えるでしょう。テクノロジーは、人々、実際の顧客、社会、世界にとって、最前線かつ中心的な存在となっています。一方で、情報の絶対量の増大、スピードの変化、新しい環境への対応といったようにテクノロジーは複雑化しています。企業にとっても大きな機会とリスクの両方をもたらすことはあらためて言うまでもないでしょう。かつて、これほど「ビジネスのためのテクノロジーの戦略家」が求められる時代はなかったと思います。そうしたニーズに対応し、あらゆるアーキテクトが誇りを持ってその専門性を発揮するために、Iasaはできる限りのことを行ってまいりました。その一つの成果が、BTABoK(Business Technology Architecture Body of Knowledge)です。本コラムでは、BTABoKの概略を紹介したいと思います。

 

1. ITABoKからBTABoKへ


Iasa GlobalのCEOであるPaul Preissは、BTABoKの着想を得た時のことをこう述懐します。「何年か前、ルーマニアで親友と一緒に会議で話していたとき、あるアイデアが浮かんだのです。『アーキテクチャの概念を結びつけるものがない。自分の仕事を結びつけ、それを採用し、他のアーキテクトと共有する方法が必要だ』。既に世の中には多くのフレームワークに満ち溢れていました。例えば、エンタープライズアーキテクチャの世界ではTOGAFがあります。エンタープライズアジャイルの世界ではSAFeがあります。ビジネスアナリシスの世界ではBABoKがあります。それぞれの世界のアーキテクトがこうしたフレームワークを使って仕事をしています。それぞれは有用で素晴らしいものですが、それらを繋ぐものはまだありません。それぞれのアーキテクトが協業するためのものが必要です。ただ、フレームワークをつなげるためにフレームワークを作っても、別のフレームワークができて問題が悪化するだけです。その時、どういうものが必要となるかの最初のイメージが私の頭に浮かんだのです。段階的に採用することができる、真に前向きでつながりのある一連の概念をまとめ、知識体系という形をとることができると気づいた瞬間でした」


これがITABoKとして最初にまとめられたものでした。その目指したことは、共通の知識体系と言語を創出し、ITアーキテクトの専門職を正式なものとすることでした。プロセスや方法論の標準ではなく人々のフレームワークと位置づけ、ITアーキテクトの育成にフォーカスするものでした。それが今、BTABoKとして進化しました。下図をご覧ください。ITABoKとBTABoKの主な変化点をあらわしています。大幅に拡張されたことがわかるでしょう。

その進化のポイントとして、ここでは2つ取り上げてみましょう。 ・エンゲージメントモデルベースへの進化

重要なことは、様々なタイプのアーキテクトを分断するのではなく結びつけることです。さらに重要なことは、アーキテクトと組織の全ての人々とを結びつけることです。これをエンゲージメントと呼んでいます。BTABoKの大きな進化は、ITアーキテクトのケイパビリティモデルを包含した、より広いエンゲージメントモデルベースへと進化したということです。その中心にあるのが「価値提供にフォーカスする」ということです。あらゆるアーキテクトはビジネス価値の提供にフォーカスすべきというのが、BTABoKのメッセージです。それはデジタルアドバンテージという言葉で表現されています。 ・デジタルアドバンテージの追求

デジタルトランスフォーメーションとは、何かに変わることです。なぜ、トランスフォーメーションすることが必要なのでしょうか?BTABoKが主眼に置くのはそこではありません。主要ポイントはトランスフォーメーションから得られる価値である、というのがBTABoKのメッセージです。デジタルアドバンテージとは、組織がデジタルトランスフォーメーションによって実現したいことです。アーキテクチャの取り組みがここにフォーカスすることで、変化を測定することだけに重点が置かれることはなくなり、組織の中で何が変わったのか、どれだけ早く変化しているのかがより重視されるようになります。BTABoKの目標は、成果重視の測定可能なデジタル投資に特化した専門家としてのアーキテクトコミュニティを作ることです。


2. BTABoKの核心:エンゲージメントモデル


下に示すナビゲーションはBTABoKの全体像を表現しており、IasaGlobalのサイトでも公開しています。中央にあるエンゲージメントモデルが主要なダイアグラムで、それに関連する成熟度モデル、コンピテンシーモデル、トピックエリア、構造化キャンバスが横に並べられています。ここでは、エンゲージメントモデルの概略を順番に見ていきましょう。



IBAM

BTABoK全体では、Digital Advantageを4つの領域であらわし、そこで成果を上げることに重点を置いています。デジタルな顧客を想像し(Image)、デジタルなビジネスになり(Become)、デジタルな従業員を実現し(Achieve)、デジタルなオペレーションを最大化する(Maximize)ということです。その領域につながりのある概念がアイコンで配置されています。


継続的なイベント(ダイヤモンド)

BTABoKでは、革新(Innovate)、変革(Transform)、活用(Utilize)、測定(Measure)の各ダイヤモンドを、組織内外の継続的なイベントや活動として扱っています。それは企業全体、および業界、アナリスト、パートナー、顧客などの外部で継続的に起こっています。アーキテクトも組織もそれを制御できないですが、利用しできるだけ早く活用するか、理解し可能な限り最大化することが望まれます。


アウトカムモデル

円環の外側にあるアウトカムモデルは、ビジネスの全構成員が達成したいことをまとめたものです。これらは、デジタルアドバンテージに関連するビジネス全体の目標です。アウトカムモデルは、デジタルアドバンテージの測定方法であり、アーキテクチャの実践を測定するために使用される成熟度モデルに直接関連しています。各成果は、その影響力のある領域(IBAM領域)に関連します。


オペレーティングモデル

円環の1番目にあたるのがオペレーティングモデルです。ここに含まれるのは、アーキテクチャの実践における主要な活動、技術、ツール、手法です。ロードマップ、要件、意思決定など、アーキテクトがIBAMやデジタルアドバンテージを実現するために使用する手法やテクニックとなります。


バリューモデル

円環の2番目がバリューモデルです。これは、アーキテクチャ活動における品質、価値、成果を理解するための手法から名づけられました。これは、オペレーティングモデルとピープルモデルをつなぐものです。バリューモデルは、ビジネスとエンジニアリングの両方の用語で成果を測定するという共通の概念をもたらします。


ピープルモデル

3番目のピープルモデルとは、主にアーキテクト自身を扱うモデルです。これは、アーキテクト個人の能力(専門性を含む)に関する知識体系であるコンピテンシーモデルとは異なりますが、この2つの知識体系を結びつけるのは「ピープルモデル」です。アーキテクトの組織化方法、役割の説明、コミュニティの方法、大規模な領域へと成長するための貴重なツールも含まれています。


そして最後に、エンゲージメントモデルの中核に配置されているのがアーキテクチャの実践です。


3. 実践的アーキテクトを目指して


BTABoK の基本的なスタンスは、エンタープライズアーキテクチャとは肩書や名ばかりの職種が幅を利かせるような権威的な専属組織のものではないということです。そうではなく、実際にはジュニアからシニアまでのすべてのアーキテクトの努力の結集である、ということです。そして、技術戦略の実現に主体的に関わるために、自身のコンピテンシーやスキルを適用できなければなりません。真のプロフェッショナルであり続けるためのガイドラインを1つあげるとするなら、コアスキルと最新のアプローチは実践を通して常に維持されなければならないということです。エンゲージメントモデルを支えるのは、真のプロフェッショナルとしての卓越した実践力であるということが言えると考えます。

Iasa日本支部は、日本国内でも今以上に実践力を備えたアーキテクトが認知され、活躍できるような業界にしたいと考えています。また、多くの方々からIasa日本支部への期待として、BTABoKを広く啓蒙することを求められています。今年はこうしたことに応えていくため、まずは本コラムシリーズを通してBTABoKをわかりやすく解説していく予定です。また、BTABoKの日本語化と解説セミナーの準備も進めていきたいと考えています。今後のIasa日本支部の活動へのご参加、ご協力をよろしくお願いいたします。

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