EAがビジネス変革とCX/UXをつなぐ

 来たる2021年11月5日に、「DX時代のエンタープライズアーキテクチャ」と題してIasa日本支部アニュアルカンファレンスを開催します。10回目となる本カンファレンスは、コロナ禍もあり前年に引き続きオンラインとなりますが、国内外から有識者をお招きしてデジタル・トランスフォーメーション(DX)の時代に即した最新のトピックが学べる機会をご提供します。


本カンファレンスの講演タイトルは、以下のラインナップとなります。

  • なぜEAがDXを加速するのか 〜 DXの本質とEAによる推進手法 〜 

  • DX時代におけるCX/UXの重要性と事例紹介 〜 良いCX/UX、悪いCX/UXとは何か、その違いは利用者中心であるか否かに尽きる 〜

  • ‘BTABoK’ はアーキテクチャの実践にどの様に変化をもたらすか? 〜 ステークホルダー主導のアーキテクチャの実践のフレームワーク BTABoK 

 ここで目を引くのは、CX/UXというキーワードでしょう。いまやCX/UXという言葉を目にしない日はありませんが、それがEA(エンタープライズアーキテクチャ)とどう関係するのか?とお思いの方もおられるでしょう。一般的にEAの文脈でCX/UXが語られることは、まだまだ少ないようです。しかしDX時代と言われる今だからこそ、その関係は強まっていかなければならないと考えます。ということで、本コラムで考察していきたいと思います。

 

1. UX (ユーザーエクスペリエンス) とは


 UXと類似する言葉でUIおよびユーザービリティデザインがあります。似て非なる言葉ですが、その概念をしっかりと説明できる人は少ないようです。そしてもう一つ「CX (顧客体験)」という概念があり、どんどんわかりにくい状況となっています。最初にまず、UXとUIの違いを考えてみます。UIとは、ユーザーインターフェース (User Interface) の略で、Interfaceは「接点」を意味します。つまりUIは、ユーザーと製品・サービスの接点、つまり「ユーザーに見えて触れるすべての場所」を指しています。


 例えばWebサイトであれば、画面デザインや、ボタン、遷移テキストなどがUIに相当します。そして、ユーザービリティデザインとは、ユーザーが操作を間違えたりつまずいたり、または、やるべきことを誤解しないように、製品・サービスの品質を改善してその機能を十分利用してもらえるようにする設計行為といえます。一方、UXはユーザーの「体験」そのものを指します。とはいえ、UXという概念に定まった定義はなく、様々な専門分野や立場ごとで異なった意味で使われています。ここでは、その概念を考えるうえでUX白書を見てみます。これはUXの専門家がその概念を議論しまとめたものです。その抜粋を以下に記載します。

 

UXには以下の特徴があります。

  • UXは一般的な概念としての経験の一部です。UXはシステムを通じた経験であるため、より限定的です

  • UXはシステムとの出会いを含みます。積極的利用、個人的利用だけでなく、例えば他者がシステムを利用するのを観察するなど、より受動的にシステムと関わることも含みます

  • UXはある個人に固有のものです

  • UXは過去の経験とそれに基づく期待に影響されます

  • UXは社会的、文化的な文脈に根ざしています

それでは、UXではないものとはどういったものでしょうか?

  • UXは人間に焦点を当てており、技術主導のものではありません

  • UXはあるシステムを単独で利用する個人だけに関するものではありません

  • ユーザーが感じるユーザビリティは UX全体に影響を与える典型的な側面ではありますが、ユーザビリティとUXは同義ではありません

  • UXデザインは、インターフェースデザインより広範囲なものです

  • UXはブランド経験・消費者経験・顧客経験とお互いに影響を与え合うものの、それらの概念と同義ではありません

「ユーザエクスペリエンス」という言葉は「経験」よりも適用範囲が狭いですが、ユーザエクスペリエンスに関するいくつかの概念を包括した用語です。

引用:UX白書(日本語訳版), http://site.hcdvalue.org/docs

 

 つまり、UIはユーザーと製品・サービスとの「接点」を扱い、UXはユーザーの内的で主観的な「経験」を扱うものという違いがあります。そして、UXのデザインは製品・サービスを提供するうえで考慮すべき重要事項となってきました。その理由としては、テクノロジーの発達に伴う情報流通の変化や、ユーザーの抱く価値観の変化などがあげられるでしょう。大量のモノがあふれ、どのサービス・製品も似たような機能を持つようになった現在、サービス・製品を差別化できる要因が「ブランドイメージ」や「体験」です。この状況はBtoC業界で顕著ですが、BtoB業界でも大きな関心ごととなっています。一昔ならば、企業同士の取引を中心に考えておれば良かったかも知れませんが、DX時代はその先の「真のユーザー」にターゲティングしていくことが求められるからです。つまり、多くの企業にとってUXに取り組むことは、重要なビジネス命題となってきたといえます。


2. CX(カスタマーエクスペリエンス)とは


 次に、CXを考えてみましょう。ちなみに、CXとUXの境界線は曖昧です。しかし、あえてその違いを強調するなら、CXとは「顧客 (=カスタマー) としてのあらゆる体験」を指す概念といえるでしょう。つまり、サービス・製品を認識してから購入を検討、購入した場合はそれを使用するという一連の流れのすべてにおける体験のことを意味します。一般的に、カスタマーとは「サービス・製品に関わる全ターゲット」を指します。一方で、ユーザーは「特定のサービス・製品の利用者」を指します。そういう意味で、カスタマーのほうがユーザーより広範囲となり、よってCXはUXを包含する概念と見ることもできます。ただ、CX/UXの概念については様々な考え方があって語り尽くせないので、ここではその一つを示すに留めます。

引用:UXデザインとCXデザインの違いとそれぞれの役割, https://blog.btrax.com/jp/ux-cx/


ここで理解いただきたいのは、より良いCXを提供するにはデザイナー視点だけでなく、ビジネスの仕組みやプロセスをデザインする視点が必要になるということです。それに加えて、あらゆるターゲットとつながっていくことから、高度なセキュリティや新しいデバイスへの対応といったテクノロジー面や、それらターゲットから収集したデータをどう利活用していくかといった情報アーキテクチャ面でのデザインが求められます。ビジネス、テクノロジー、そして体験、これらはつながっているということです。つまり、真のCXは「ビジネス」「テクノロジー」「UX (顧客視点)」の重なるところに生まれるといえるでしょう。


3. エンタープライズアーキテクチャとCX/UX


あらゆる企業にとって、CX/UXが重要なケイパビリティとなってきたという「意識」は広がってきている一方で、効果的な実践に落とし込めている組織は少ないのが現状です。その要因は大きく2つあります。1つは、現場の担当者レベルがCX/UXの意義や手法を十分に理解できていないことがあげられます。これについては、メディアで多くの実践事例が露出してきていることが好材料です。2つ目は、全社的にCX/UXに取り組める体制になっていないことです。担当者レベルのリテラシーは上がってきている一方で、ビジネスやテクノロジー観点との連携と、それを推進する人材の育成はこれからといえます。では、どのような人材と体制が必要でしょうか。2007年に経済産業省が「今後のIT人材像」を公開し、変革をリードする人材として「基本戦略系人材」「ソリューション系人材」「クリエーション系人材」をあげました。

 「基本戦略系」は、“ITを活用したビジネス価値の増大をリードする人材”で、主にストラテジストが相当します。「ソリューション系」は、“ビジネス戦略に対して最適なシステムをデザインする人材”で、アーキテクトをはじめプロジェクトマネジャーやテクニカルスペシャリスト等に相当します。最後の「クリエーション系」は、“社会・経済にイノベーションをもたらす人材”であり、クリエータやデザイナーが含まれるでしょう。なお、ビジネスとテクノロジーのギャップをなくしていくことの重要性の認識は、既に広く認知されているところです。結果として、戦略人材とソリューション人材の領域は重なり、協調する機運は高まっています。近年のエンタープライズアーキテクチャ(EA)という文脈でも、「基本戦略系人材」と「ソリューション系人材」の溝は埋まりつつあると感じています。これが、EAというパラダイムの意義です。一方で、「クリエーション系人材」とのギャップは未だ手つかずではないでしょうか。しかし、DX時代ではこうした人材を育てるとともに、繋がりあうような組織が求められます。私たちIasa日本支部は、個人のスキル育成について積極的に取り組んできましたが、今後はより一層CX/UX領域とのコラボレーションも推進していきたいと考えています。高いケイパビリティを備えた個人を育て、さらには彼らがギャップをなく協調できる、そういうフレームワークへトランスフォームすることこそが、DX時代のエンタープライズアーキテクチャの一つの姿だと考えます。いかがでしょうか。ぜひ、皆様のお考えをお聞かせいただければと思います。

4. 終わりに


 本コラムでは、CX/UXを取り上げました。私たちアーキテクトは、今後ビジネス領域のみならず、デザイン領域の専門家とより一層協調していくということをお伝えしました。そのためには、それぞれの専門領域に閉じるのではなく、お互いが対話し理解し合うことが大切です。まず、その第一歩を踏み出しましょう。Iasa日本支部カンファレンス2021では、エスディーテック株式会社代表取締役の川端様をお招きし、ITアーキテクトとCX/UXデザイナーがチームで取り組む必要性について解説いただきます。是非この機会にご参加頂き、共に「DX時代のエンタープライズアーキテクチャ」に思いを馳せていただければ幸いです。




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