今回のコラムはBTABoKのオペレーティングモデルの "Requirements" について取り上げます。
企業の持続的な成功と競争力の維持には、適切なアーキテクチャ上重要な要求(Architecturally Significant Requirements 以下ASRと略)の識別・管理が鍵となります。
本コラムでは、ASRの概念や識別方法・管理方法について解説させていただきます。
「要求」の大部分は、価値のために必要なものではない。それらは実際には、一人のシステム・ユーザーの好みに関するものなのだ。より良いシステムのために、ユーザーの嗜好よりも価値のマネジメントを今すぐ学び始めよう。【Paul Preiss】
IasaのCEO兼創設者であるPaul Preissが指摘するように、すべての要求が直接的な価値を持つわけではありません。つまり、個々のユーザーの好みを超えて、組織の成長と成功に寄与する要求が価値のために真に必要な要求と言えるでしょう。
では、アーキテクチャ上重要な要求(ASR)とは何なのでしょうか。
ASRはBTABoKで使用されている用語で「組織に対する価値の開発と提供に関連する一連の概念」とされています。少し抽象的なので言い換えると「組織全体の戦略的目標を支え、より大きなビジネス価値を生み出すために欠かせないアーキテクチャに関連する要求」ということです。
アーキテクチャに関連する要求はアーキテクチャ開発ライフサイクル(ADLC)の初期に収集する必要があるため決定することが困難です。組織はプロジェクトが進行するにつれて、初期の要求にさらに詳細な要求を加え、継続的に改善していく必要があります。要求に関するすべての決定が価値を持ち、追跡可能であることがASR管理の大きな目標とされています。
続いて、アーキテクチャ開発ライフサイクル(ADLC)の中でASRはどのように洗練されていくのか見ていきましょう。
イノベーション/アイデア 新しいアイデアや概念がASRとして提案され、ビジネスケースの形成に向けて展開されます。
ビジネスケース プロジェクトの費用と価値創出の可能性が評価され、ASRがより具体的な形で明確化されます。
エピック/ソリューションストーリー 詳細なプロジェクト要件としてのASRが整理され、アジャイルやリーンの手法を通じて実際のプロジェクト計画に統合されます。
詳細要求事項 このレベルのASRでアーキテクチャに関連すると考えられるものは少ないですが、アーキテクチャへの影響を確実に特定するために、アーキテクトが継続的にレビューする必要があります。
この際、アーキテクトは適切なアーキテクチャ要求を決定する必要がありますが、
「適切な」要求とは一体何でしょうか?
アーキテクチャに関連する要求が「適切」とされるのは、以下の要素を持つ場合とされています。
製品やフレームワークに深く影響を与える要求
管理された品質属性に影響を与える要求
組織の能力やロードマップに影響を与える要求
政治的要素や経営層の支持を受けた要求
革新的なビジネスモデルやアプローチを示唆する要求
ここまでASRの識別に関して綴ってきましたが、
ASRは識別して終わりではなく、適切な管理が必要です。
その理由は、適切な管理を通じてのみ、ASRが設計の意図した通りに機能し、システムの性能、安全性、拡張性などの基本的な品質要件を維持し続けることが可能となるからです。
よってASRが戦略的な目標に対して最大の価値を提供するためには、
ASRが以下の基準を満たしているか確認する価値のトレーサビリティが必要となります。
完全性 要件が完全に記録され、情報の漏れがないこと
追跡可能性 要件が利害関係者のニーズを満たすとともに、適切に文書化されていること
現行性 要件が常に最新の状態に保たれ、時代遅れになっていないこと
検証可能性 要件を実施した結果が、検査、デモンストレーション、テスト、分析を通じて客観的に評価されること
有用性 要件が実装されることで、測定可能な価値を組織に提供し、その効果が定量的に示されること
これらの基準を確認することで価値のトレーサビリティが可能となり、組織の競争力を維持するための基盤を強化します。
今回はオペレーティングモデルの "Requirements" について紹介させていただきました。
アーキテクチャ上重要な要求(ASR)は企業の戦略的目標達成に不可欠な要素です。
ASRを適切に識別・管理することで、企業の技術的な挑戦に寄与し、持続可能な競争力を維持することができます。ASRの識別と管理には、ビジネスと技術のリーダーシップを連携させることが不可欠であり、アーキテクトはその橋渡しとして重要な役割を果たすのです。
ご一読いただきありがとうございました。
Iasa日本支部では情報交換や勉強会の場を設けており、システムの視覚化についても研鑽を深めていますので、今後のIasa日本支部の活動へのご参加、ご協力をよろしくお願いいたします。
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