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執筆者の写真岸川 能行

BTABoK Engagement Model (3) ~ Value Model ~

バリューモデルとは

ITABoK2からBTABoK3で大きく進化したIasaエンゲージメント・モデルですが、バリューモデルはその進化の大きな特徴の一つでしょう。「職業としてのアーキテクトの価値 (バリュー) 向上」は、Iasaの主要な活動目的のひとつであり、今回のエンゲージメント・モデルにおけるアーキテクチャの価値 (バリュー) へのフォーカスも、それに沿ったものといえます。

Iasaエンゲージメント・モデルにおいて、バリューモデルは「明確かつ一貫した一連の意思決定ルールによる価値実現」と定義されています。ここでは、アーキテクチャはつまるところ、何らかの決定の積み重ねである、という、言われてみれば当たり前のことが前提であることにあらためて気づかされます。

昨今多くの企業や組織で、それらの業務システムの過剰な複雑化・硬直化が課題となっていますが、そもそも意思決定が正しくない、あるいは存在しない場合、そうなるのは当然でしょう。それでも景気全体が良かったころはカネ頼みの力業で解決できたでしょうが、今ではそうも行きません。

まずは意思決定に対し、もっと自覚的になること、有体に言えば、体裁だけの意思決定や、ベンダー丸投げに代表される意思決定の放棄といった旧習を見直すこと、というシンプルながら大事なメッセージが、このバリューモデルに込められています。

Iasaエンゲージメント・モデルでは、バリューモデルの内側にピープルモデル、外側にオペレーションモデル、更にアウトカムモデルが配置されていますが、内側から順に見て行けば、正しい人々 (ピープル) が、正しい決定 (バリュー) を下し、それが正しく実行 (オペレーション) され、正しい成果 (アウトカム) を生む、という、エンゲージメント・モデル全体のメッセージ、あるいはストーリーが見えてくるでしょう。

バリューモデルの概要

エンゲージメント・モデルのナビゲーション・マップでは、バリューモデルのリング上に、正午の位置から時計回りに以下の項目が配置されています。

  • 目標 (Objectives)

  • 技術的負債 (Technical Debt)

  • 投資計画 (Investment Planning)

  • スコープとコンテクスト (Scope and Context)

  • 構造と複雑性 (Structure and Complexity)

  • カバレージ (Coverage)

  • 原則 (Principles)

  • アーキテクチャ分析 (Architecture Analysis)

  • バリュー・ストリーム (Value Streams)

  • バリュー・メソッド (Value Methods)

  • リスク・メソッド (Risk Methods)

それぞれの項目についての詳細は別の機会に譲りますが、下記のように概要をまとめてみました。

  • まず「目標」「投資計画」そして「技術的負債」は定量的価値に対する取り組みです。SMART (Specific-Measurable-Assignable-Realistic-Time bound) な目標立案、OKR (Objectives and Key Results) によるアジャイルな目標管理、バリュー・マネージメント・フレームワークを活用した投資計画立案手法などが取り上げられています。

  • 「スコープとコンテクスト」は、アーキテクチャにおける意思決定の影響が及ぶ範囲 (スコープ) のレベル分け、またその意思決定に影響を与える様々な要因 (コンテクスト) についての考察です。

  • 「構造と複雑性」は、アーキテクチャ上の問題解決における複雑性の評価に、CynefinやVUCA (Volatility-Uncertainty-Complexity-Ambiguity) などのフレームワークを活用する方法を紹介しています。

  • 「カバレージ」はアーキテクチャ・タスクの戦術的な選択や優先順位の考え方を論じています。

  • 「原則」「アーキテクチャ分析」は、アーキテクチャ上の重要な判断に関わるステークホルダとの価値基準、評価手法および結果の共有についての考え方が記されています。

  • 「バリュー・ストリーム」「バリュー・メソッド」は、ケイパビリティ、バリュー、(サービス・) プロダクトの間の関係性、「品質」「コスト」「売上」「タイムライン」という4つの観点からの価値評価手法を取り上げています。

  • 「リスク・メソッド」は、一般的に知られたリスクの類型と対応方法をまとめています。

バリューモデルの特徴

このバリューモデルの特長として、まず第一にはその対象の幅広さと多様な切り口が挙げられるでしょう。意思決定というと、まず単一のITプロジェクトの”Go or No-Go”といったシンプルなイベントを想像しがちですが、バリューモデルでは先に挙げたように、エンタープライズという時空間の全体に広がるアーキテクチャを生成・維持するダイナミズムとしての意思決定が、様々な視点から論じられています。

もう一つの特長は、様々なキャンバス・テンプレートの提供です。キャンバスといえばビジネスモデルの開発に向けたものが有名ですが、バリューモデルの一部の項目では、実践に役立つ様々なキャンバスが、その活用方法とともに紹介されています。これらのキャンバスはppt形式のファイルとしてダウンロードも可能です。複数のアーキテクトがチームワークを通じて組織にエンゲージするために、このように予めデザインされたテンプレートが存在することは大きな助けになるでしょう。

バリューモデルの活用

いうまでもなく、アーキテクトは組織の価値実現にコミットする立場であり、そのためには組織の正しい意思決定をリード、あるいはファシリテートすることが一つの重要なアーキテクトの役割となります。逆にいえば、アーキテクトの関与 (エンゲージ) 抜きですでに下されてしまった、ひょっとすると間違っているかもしれない決定をフォローするだけなら、それはもはやアーキテクトとは呼べない、ということになります。そこでどうすべきか、どうすれば「本当の」アーキテクトに近づくことが出来るかを、全てとは行かないにしろ、このバリューモデルから学ぶことが出来るでしょう。

Iasa Globalのホームページでは、BTABoKのコンテンツに関連した解説付きスライドが"Learning Shots”として多数掲載されています。バリュー・フォーカスな意思決定をリードするアーキテクトを指向する皆さんは是非一度覗いてみて下さい。

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